今年の熊はいつもと様子が違う。例年なら減少傾向となる7月以降も目撃が相次ぎ、市街地への出没は前年の1・7倍だ。福島県の分析によると、目撃情報は年間最多だった2023(令和5)年度の709件を上回るのが必至の状況。専門家は猛暑の影響に加え、今秋はブナの実が凶作と予想されているため市街地などに出没する危険性が一層高まるとみる。県は11日、会津地方と中通りにツキノワグマ出没警報、浜通りに注意報を発令し、注意を呼びかけた。
2020年度からの月別の目撃件数は【グラフ】の通り。県自然保護課によると、今年度は8月末までに661件の情報が寄せられた。7月には月別最多の188件を記録。9月になってからも1日4~5件で推移し、今年度は過去最多だった2023年度の709件を上回るのは確実な勢いだ。7~8月の夏季の市街地への出没件数を見ると、今年度は前年同期の104件の1・7倍に当たる178件となっている。人的被害は郡山市や喜多方市などで5件発生し、計7人が負傷した。
夏場の出没が増えているのはなぜか。県野生動物調査専門官の溝口俊夫さん(獣医師)は、猛暑を原因の一つに挙げる。夏場は例年、熊が好む果実や木の実などが成熟しておらず餌が不足する傾向にある。今年は長期の高温と少雨による乾燥が拍車をかけた。植物の育ちが悪く、腹をすかせた熊が人里に寄ってきたと溝口さんはみている。
県は毎年、秋季の熊の餌となるブナやミズナラ、コナラなどの実りを予測しており、今年はブナが県内全域で大凶作となる見通しだ。ブナの実は栄養価に富み、溝口さんによると「冬眠を控える熊にとって不可欠な餌」という。凶作なら熊同士でブナの実の奪い合いとなり、「若い熊や子連れの母熊などは力の強い大きな熊との争いを避けて里地に移動してくる」と見立てる。
秋は山菜採りや登山などで人が山林に立ち入る機会が増える。稲刈りなどの農作業も忙しさを増す。野外で熊と遭遇する危険性は高まる。県は「熊鈴やラジオなど音の出る物の携行」「熊が活発に活動する朝夕の時間帯は警戒を強める」などの対策が重要とする。
人里が餌場だと熊に認識されないような対応も必要だ。県自然保護課の吾妻正明課長は「コメや肥料などは納屋に鍵をかけて保管するなど、熊に餌場と思われないような対策を取ってほしい」と呼びかけている。
警報発令は、会津地方は2年連続、中通りは2年ぶり。浜通りの注意報は今年4月から7月にかけて出ていたが、目撃が相次いでいるため再び発令した。期間はいずれも12月15日まで。