福島県内5JAの2025(令和7)年産米の生産者概算金が出そろった。コシヒカリ(60キロ)は東西しらかわ(本店・棚倉町)の3万500円を最高値に各JA2万8千~3万円台となり、合併を経て県内5JA体制となった2016(平成28)年以降で最高額となった。前年比引き上げ幅の8500~1万500円も過去最大。有識者は県内JAの生産者概算金から算出し、店頭価格は5キロ4千円前後と推計した。
■店頭5キロ4千円前後か 識者推計
県内5JAのコシヒカリ(60キロ)の生産者概算金は【図】の通り。福島民報社が取材に基づきまとめた。前年当初と比べ、東西しらかわは1万500円高く設定。福島さくら(同・郡山市)と夢みなみ(同・須賀川市)は1万円の上昇となった。ふくしま未来(同・福島市)は8500円アップし、会津よつば(同・会津若松市)は8900円上がった。
民間業者との集荷競争に対抗するため、各JAは高値の概算金設定が必要と判断した。JA関係者によると、卸売業者がJAを通さず生産者から直接買い取る事例が増え、インターネットを活用し生産者から消費者への直接販売も拡大している。「生産者のJA離れ」により昨年のJAのコメの集荷率は全国的に低下した。今年も同様の傾向が続いており、既に民間業者が生産者に高値を提示して集荷量を確保する動きが県内で広がっている。
肥料や農薬、燃料、農業資材の高騰、猛暑や少雨、害虫対策などで生産経費がかさんでいる点も概算金を決定する上で考慮した。
コシヒカリ60キロの生産者概算金が県内で最も高値となった東西しらかわの菊池教夫組合長は福島民報社の取材に「農家の所得の確保と集荷率の向上を図るためだ。さらに民間企業が高値で買い取るケースがあるという情報も踏まえ判断した」と語った。
コシヒカリ以外の銘柄では、全国有数の米どころである会津地方を管内とする会津よつばは「ひとめぼれ」2万8千円、「天のつぶ」と「里山のつぶ」2万7千円とし、いずれも過去最高水準となっている。
JA全農福島は各JAが生産者概算金を決める上で目安とするJA概算金を巡り「情報が広がり価格競争にさらされる懸念がある」として非公表としている。
■消費者のコメ離れ懸念
生産者概算金の増額は小売店の販売価格に直結する。生産者の意欲を高めるが、消費者のコメ離れの懸念がある。県内からは米価安定策の一層の強化を政府に求める声が上がる。
会津美里町の農家鴻巣泰一さん(72)は、肥料や燃料などの費用が数年前から約2倍に膨らんだ。「今回程度の概算金が安定的に続いてほしい」と願う。
石川町の農家南條英一さん(70)は「販売価格が高騰し消費者の購入意欲が下がらないか」と心配する。政府の米価安定対策が順調に進んでいるようには見えないとの認識を示した上で農家への対策強化を訴えた。
郡山市の会社員国分貴之さん(40)は家族4人分のコメ購入額が昨年から約3~4割増えた。「消費者が納得して買えるよう、国は流通の透明性を整えてほしい」と要望した。
福島市の飲食店「HAPPY HAPPY CURRY」は米価高騰の長期化に伴い、苦渋の決断で4月にメニューを値上げした。店長の菅野舞子さん(35)は「米価が落ち着かなければ、メニューの値上げをまた考えなくては」と悩む。
福島大食農学類の小山良太教授(51)=農業経済学=は県内JAの生産者概算金から、店頭価格は5キロ4千円前後と推計した。消費者には苦しい高値とし、「JAとして大きなジレンマの中で決まった概算金だろう」と受け止める。「コメが店頭に並び続け、消費者が安心して買える環境になれば、価格が落ち着いてくるのでは」と見通した。
※コメの概算金 JA全農福島が県内各JAに目安として提示する概算金は「JA概算金」と呼ばれ、コメの作付け状況や消費動向などを踏まえて決められる。JA概算金の決定後、県内各JAから生産者に支払われる前払い金が「生産者概算金」と呼ばれる。生産者の生活や営農に必要な資金が不足しないように毎年秋ごろに支払われる。販売状況を踏まえた追加払いもある。