福島県会津若松市の鶴ケ城は17日、1965(昭和40)年の天守閣再建から60年を迎える。県内屈指の観光地として不動の地位を築いた白亜の城。桜や若葉と調和した優美な姿は見る者を圧倒する。だが、堀や石垣の管理など景観を未来につなぐためには課題がある。有志による環境改善を目指す動きも出ているが、民間の力では限界がある。会津のシンボルを守り、継承しようとする官民の姿を伝える。
厳しい残暑が続く会津若松市。それでも鶴ケ城を訪れる観光客の足は絶えない。2011(平成23)年には赤瓦への改修を終え、福島県観光のシンボルはその輝きを増している。
一方、鶴ケ城公園内では堀の陸地化が進み、石垣崩落の危険性が高まっている。堀は江戸時代以降、大規模な浚渫[しゅんせつ]がされておらず、落ち葉や泥が堆積し、水が濁り流れが鈍くなっている。石垣はツタなどが絡まり、隙間から木々が生えている場所も確認されている。放置すればひび割れや空洞化が進む恐れがある。
NPO法人会津鶴ケ城を守る会理事長の弓田八平さん(73)は「問題を先送りしてはならない」と危機感を募らせる。法人は過去数回、重機を使って堀の堆積物を除去した。6月から7月にかけても、市の許可を得て作業に当たった。約7400平方メートルで雑草を除去し、水面に浮かぶ倒木を撤去。景観は改善されたが、今回着手できたのは全体の2割程度にとどまる。
団体単独ではできることに限りがあるため、歴史シンポジウムや清掃活動などを通し、市民の機運醸成にも努める。「鶴ケ城は観光客だけでなく、市民のものでもある。保全に向けた動きをさらに広げなければならない」と力を込める。
昨年6月に始めた活動への支援を募る動きも県内全域に広がりつつある。東邦銀行の寄付型私募債を通して同法人に援助したのはこれまで7社となった。寄せられた計7億5千万円の発行手数料の一部が法人に寄付される仕組みで、県民の関心は着実に高まっているという。
市もただ手をこまねいているわけではない。堀の維持管理のため取水口の清掃や石垣の除草などを定期的に実施している。ただ、これまでの維持管理方法では限界が来ているのが現状だ。
城の管理は会津若松観光ビューローに加え、観光振興、文化財保護、施設管理、水質保全を所管する複数の関係部局が携わる。市は堀の問題解決に向け、昨年度から全庁的な協議を始めた。7カ年で約14億円を投じて浚渫する長野県松本市の松本城などの先進事例を調査。専門家を交えて石垣など史跡に影響を与えない手法を検討する。
守る会副理事長で会津歴史観光ガイド協会理事長の石田明夫さん(68)は官民が連携し、市全体での城を守る動きの創出が大切だと指摘する。「鶴ケ城は会津の財産。われわれには次代に在るべき姿で残す責務がある」と語る。室井照平市長も保全には市民の意識醸成が重要だとし「市民の憩いの場で会津のシンボルである鶴ケ城を末永く後世に伝えていく」との姿勢を示す。