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里の秋(9月18日)

2025.09.18 09:09

 ♪静かな静かな―で始まる童謡「里の秋」。80年前に世に出た。これほど社会背景がにじむ曲もないだろう。♪ああ かあさんとただ二人―。家族は出征した父の帰りを待ちわびている▼元の歌詞は戦時中に書かれた。父の武運を祈る軍国少年をうたった。終戦により兵士の復員が国の重要な事業となる。内容の一部を変え、戦意高揚色を一掃した。メロディーがつけられ、ラジオ放送されると、家族らから大きな反響が寄せられた(上笙一郎編「日本童謡事典」)▼終戦時、海外に残された兵士ら日本人は600万人以上に上る。家庭は父や夫、息子の帰還を今か今かと待った。「里の秋」は心に染みる歌だったのだろう。支えとなる人が無事帰る希望と、不在の悲しみが当時混在していた時代だ。その思いが「戦後」日本の原点になり、不戦の誓いが根付いた▼「現代を新たな戦前にしないため、力の続く限り語り部活動に取り組む」。先月の全国戦没者追悼式で献花した本県代表の遺族が決意した。「戦後」がいつまで続くのか。世界に目を向けるたび、心もとなさが募る。節目の年に口ずさむ「里の秋」に平和の思いを新たにする。静かな、静かな永[と]久[わ]の秋に―。<2025・9・18>