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郡山駅前10代たむろ 「トー横」「グリ下」化懸念 SNS通じ福島県内各地から

2025.09.20 11:23
JR郡山駅前やその周辺が、居場所を求める10代のたまり場と化している(写真と本文は関係ありません)

 学校や家庭に居づらくなった10代らが、福島県郡山市のJR郡山駅前や周辺の緑地公園などでたむろする姿が頻繁に目撃されている。東京都新宿・歌舞伎町の通称「トー横」や大阪・ミナミの「グリ下」といった一角と同じように、若者がトラブルに巻き込まれかねないと危惧する声が上がる。有識者は中高生らが犯罪の被害者や加害者になる前に「安全安心な居場所」を大人がつくるべきだと警鐘を鳴らす。


 経済県都に夜のとばりがおりた午後8時ごろ、駅前の繁華街は雑居ビルや飲食店などのまばゆい光で華やぐ。

 中高生だろうか、駅前の広場でたばこをくわえる男女の姿があった。近くの飲食店で働く男性に尋ねると、「あいつらは『駅ッズ(エキッズ)』と呼ばれている」と教えてくれた。「向こうにいるのもそうだよ」。指をさされた方向には、若い男性3人が歩いていた。髪を染め大人びた格好をしているが、顔つきが幼い。アーケードで他の男性数人と合流し、暗がりに消えていった。

 駅ッズと呼ばれる10代の若者への接触を何度か試みたがけむに巻かれた。だが、その一員と交友関係にある少年(16)が取材に応じた。

 少年によると、交流サイト(SNS)などでつながった少なくとも20人以上が県内各地から郡山駅前周辺に集まってくる。「知り合いの知り合い」などを含め、その日によって遊ぶ顔触れが入れ替わり、グループの全体像は把握できない。昼過ぎから夜にかけて、4人以上で行動することが多い。「郡山界[かい]隈[わい]」と呼ぶ人もいる。学校になじめていない人や家出している人が多く、単純に会話を楽しんだり、未成年なのに「その場のノリ」で飲酒や喫煙をしたりしているケースがあるという。

 こうした未成年を犯罪に取り込もうとしている大人の存在が垣間見える。少年は「友達が『仕事あるよ』と危なそうな案件に誘われたり、違法な薬物を勧められたりしていた」と証言する。「そういう大人は早く捕まってほしい。巻き込まれたくないよ」。今は駅前周辺に寄りつかず、距離を置いている。

 郡山地区の少年警察ボランティアを20年以上務めている二瓶裕子さん(75)は駅前周辺にたむろする若者の現状を「ここ数年で年齢層が中学生まで下がり、女子も増えてきている」とみている。補導活動中の警察官に少年の方から話しかけてくることがあるといい、「気にかけてほしいのかな。愛情が不足しているのかもしれない」と指摘する。

 郡山市によると、駅前周辺には子ども食堂を運営する組織が一つあり、毎週木曜日に開催している。こども総務企画課の担当者は「駅前周辺に集まる未成年に対し、居場所づくりなどの活動をしている支援団体は現時点で把握していない」として、「子ども食堂の運営団体との会議で議題に取り上げたい」としている。


■犯罪に巻き込まれる恐れ 郡山署

 郡山署によると、2023(令和5)年ごろから駅前のコンビニなどで万引する非行少年が目立ち始め、駅前周辺に集まる未成年の存在が浮き彫りになった。その場の勢いで犯罪に手を染める事例は珍しくないといい、SNSで結び付く反社会的勢力「匿名・流動型犯罪グループ(匿流)」に取り込まれる恐れがあると懸念している。

 同署は悪質な犯罪に対し厳正に対処している。7月には当時10代の少年に暴行を加えた少年3人を傷害容疑で逮捕した。補導した少年らは必要に応じて要保護少年として児童相談所に通告している。ただ、それだけでは根本的解決にはつながらない。同署生活安全課の斎藤恵課長は「家庭や学校での居づらさなどを解消しなければ」と話す。


■青少年問題に詳しい筑波大教授土井さん 「大人が居場所づくりを」

 青少年問題に詳しい筑波大人文社会系教授の土井隆義さん(65)社会学は、家庭や学校に不安を抱える若者の居場所を大人がつくるべきだと指摘する。

 ―駅前周辺に集まる未成年をどうみるか。

 「素行不良の若者も一部にいると思うが、多くは家庭環境や学校生活に不安を抱えている若者たちだろう。人間は何かに依存しないと生きていけない。同じ悩みを抱え、理解してもらえる相手とは共依存関係になりやすいため、そこにつながりを求めて集まる傾向がある」

 ―家庭や学校に不安を抱える要因は何か。

 「1990年代ごろまでは家庭や学校の束縛に反発して非行に走る未成年が目立っていたが、2000年代以降は家庭や学校の拘束力が弱まった代わりに自ら居場所を確保しなければならなくなった。家庭では、両親の不和という旧来の要因の他に、経済格差の拡大や核家族化の進行によって、一人親が夜も長時間働かざるを得なくなるなど子育ての余裕をなくしている」

 ―非行に走る心理は。

 「そこに集まる者同士の関係をつなぐための一つの手段として、非行を行うことがしばしばある。周囲の空気に流されやすいと、性犯罪や暴行など犯罪の被害者や加害者になってしまうこともある。匿名・流動型犯罪グループ(匿流)に取り込まれれば、末端として使われることになる」

 ―どう支援すべきか。

 「犯罪の被害者や加害者になってしまう前に、安心できる居場所を大人たちが提供すべきだ。子ども食堂のような食事を提供する空間は重要で、緊張が緩んで子どもたちも本音を吐き出しやすくなる。行政が団体をバックアップする仕組みも必要だ。東京都新宿区ではそうした施策を積極的に進めている。郡山市でも前向きに検討してはどうか」