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【運送業者存続へ】社会全体で後押しを(9月23日)

2025.09.23 09:14

 2024(令和6)年度に休廃業した県内のトラック事業者(営業所を含む)は54社に上り、過去最多となった。物価高や運転手の確保などが足かせとなり、事業を断念するケースが相次いでいる。こうした流れがさらに加速すれば物流網は大きく揺らぎ、国民の暮らしと産業活動は立ち行かなくなる恐れがある。荷主と消費者を含め社会全体で業界の置かれた厳しい状況を理解し、それぞれの立場から存続を後押ししたい。

 休廃業の背景には、軽油価格の高止まりや車両・タイヤなど資材の高騰がある。働き方改革関連法に基づき昨年4月に始まった運転手の時間外労働の上限規制や人手不足などで、厳しいやりくりが続いているという。「経営を続けるには、経費削減などの自助努力だけでは限界がある」との声が業界内から出ている。

 トラック輸送は工業製品や農林水産物の出荷、生活物資の流通などで国の経済を下支えしている。物流網が脆弱[ぜいじゃく]になれば、食料や医療資材の安定供給が揺らぎ、災害時の物資輸送にも支障を来しかねない。こうした混乱を念頭にさまざまな立場で危機感を共有すべきだ。

 地方の運輸業界はこれまで、東京都による排ガス規制、トラックへのスピードリミッター装着の義務化が重なり、収益を上げにくい体質が根付いた。荷主に運賃の引き上げを求めにくい構造的な問題も抱えている。2023年の中小企業庁による調査では、トラック運送の価格転嫁率は全業種で最下位だった。適正運賃の確保を実現するには、行政の強力な後押しが必要にもなる。

 拡大するネット通販で消費者は「配送期間は短く、送料は安く」を求める傾向が強いが、こうした意識を徐々に変えねばならない。

 業界は中小事業者が多く、単独での生き残りが難しい時代を迎えつつあるとも言われている。事業協同組合の設立やM&Aでネットワークの拡大が実現すれば、資材の共同仕入れが可能となりコスト削減につながる。大口利用者向けの高速道路のETC割引を受けられる利点も生まれる。規模のメリットを生かして、配車・運行の効率化も図られる。あらゆる知恵を総動員し、冬の時代を乗り切ってもらいたい。(渡部純)