昭和初期に郡山市庁舎として建てられた県郡山合同庁舎を次代に残そうと、市に文化財指定を求める市民有志の動きが加速している。正面に塔を備えた左右対称の建物は、約1世紀にわたり市民の暮らしと市勢の進展を見つめてきた。県郡山合庁は市内のビッグパレットふくしま北側に来年度中に移るが、現庁舎の扱いは白紙のままだ。市は所有する県と速やかに調整し、移転後の在り方について議論を深めるべきだ。
市民有志は「福島県合同庁舎を郡山市重要有形文化財指定を求める会」。2日に椎根健雄市長に2746筆の署名簿を提出した。椎根市長は「県としっかりコミュニケーションをとっていく」と応えた。求める会は22日、市中央公民館で会合を開き、庁舎の利活用案を示して会員、市民らと意見交換する。
日本建築学会が編集し、1980(昭和55)年に発行された「新版 日本近代建築総覧―各地に遺る明治大正昭和の建物―」は、県郡山合庁を「特に重要な建物や注目すべき作品の一つ」に挙げている。県内で同様の建物は、国重要文化財(重文)の安積歴史博物館(郡山市、旧県尋常中学校本館)、旧伊達郡役所(桑折町)、天鏡閣(猪苗代町)、国有形文化財の郡山公会堂などがある。県郡山合庁にも文化財として保存する価値が見いだせよう。
旧郡山市庁舎は1927年に起工し、3年後の1930年に完成した。総2階建て、中央の塔屋部分は4階建ての鉄筋コンクリート造りだ。俯[ふ]瞰[かん]すると、カタカナの「ヨ」の形に鳥が羽を広げた姿に見える。玄関ポーチや窓の周囲などに凝ったデザインが施されている。市役所の移転に伴い県に寄付され、1968年から県郡山合庁として利用されている。
建物塔屋部分には郡山市初の図書館が置かれ、玄関上のバルコニーは三島由紀夫の生涯を題材にした日米合作映画のラストシーンの撮影に使われた。映画は1985年に公開(日本未公開)され、カンヌ映画祭で最優秀芸術貢献賞を受けた歴史もある。
老朽化に伴う建て替え、東日本大震災など災害で失われた由緒ある建物は少なくない。市民が誇れる近代遺産として県郡山合庁の在り方を考えたい。(湯田輝彦)