自民党総裁選が告示された22日、福島県民は5候補の論戦の幕開けに注目した。参院選で敗れ、衆参両院で少数与党となり2カ月。総裁選の前倒し論議から石破茂首相の退陣表明に至る過程には、政治が停滞したとの指摘がある。物価高対策やコメをはじめとする農政、復興・防災、人口減少など山積する課題は、総裁の交代で前に進むのか。野党との連携や連立の在り方も問われる論戦に対し「日々の暮らしや将来に目を向けてほしい」との声が上がる。
■物価・コメ・復興 本気の姿勢見えない
福島市の子育て支援団体「ぱすかるキッズクラブ」代表の真田規行さん(46)は22日、運営する子ども食堂で使う食材を手に「経済対策に本気で取り組む姿勢は見えない」と各候補の印象を口にした。参院選で党が掲げた一律2万円給付金は見当たらなかった。
真田さんらは飯坂町や清水地区で4年前から月に数回、小中学生に昼食や夕食を出している。1回当たりの利用者は10人前後。弁当を振る舞う日は80人ほどが集まる。食事支援への需要の高まりを感じる一方、長引く物価高を背景に支援者のコメや野菜は集まりづらくなっている。運営が逼迫[ひっぱく]する中、「現場で必要な政策を見定め、確実に実行してほしい」と注文する。
主食を支えるコメ農家は政府の増産方針に揺れる。稲刈りを迎えた喜多方市の庄司英喜さん(78)は「将来を考えた農政を進めてほしい」と訴える。約2・7ヘクタールを作付けしているが、値動きや資機材の高騰に直面している中小・兼業農家の経営は安泰ではない。「不安を感じずに営農を続けられる政策を望む」と訴えた。
復興・防災を重視した石破首相の路線が新総裁に継承されるかも不透明だ。
富岡町商工会長の遠藤一善さん(64)は「被災地を元に戻すという思いを再認識してほしい」と東京電力福島第1原発事故からの復興の進展を願う。町の帰還困難地域のうち、2年前に特定復興再生拠点区域(復興拠点)として避難指示が解除された夜の森地区でバウムクーヘンの店を営む。地域ににぎわいを生みたいが、町内居住者は事故発生前の6分の1にとどまる。「野党と十分に議論し、復興をやり遂げる姿勢で挑んでほしい」と強調する。
過疎と人口減が進む会津地方からは地域創生を望む声が上がる。河東地域づくり委員会(会津若松市)で委員長を務める渡辺市雄さん(73)は「地方の活性化が後回しになっている」とこぼす。第2次安倍政権下で始まった地方創生は開始から10年余りが過ぎたが、住民の自助努力には限界がある。「地方に目を向け、与野党が連携した一体感ある政治が必要だ」と話した。
■党再生 体質変わるか疑問も
「解党的出直し」を掲げた総裁選だが、名乗りを上げた5人は1年前の前回も戦った面々だ。告示前から旧派閥の元領袖[りょうしゅう]ら重鎮を訪ねて協力を仰ぐ旧態依然とした動きもあり、「党の体質の刷新につながるのか」との冷ややかな声が上がる。
福島市の主婦高橋美由紀さん(53)は、後継首相の座をうかがう新総裁が物価高などの喫緊の課題に対応できるのか、懐疑的な視線を向ける。「生活に密着した部分の政策は特に大きな変化を感じない。これまでの経緯を考えても、自民党が生まれ変わるのは大変だと思う」と話した。
地域のインフラを支える建設業界は公共事業が先細り、厳しい経営が続く。根本産業(郡山市)は地元で人材を確保しようにも、折からの燃料・資材の値上がりで大幅な賃上げはできないのが実情だ。取引先によっては価格転嫁に向けた交渉も難しい。社長の根本太介さん(45)は「地方を支える中小企業を含め、経費増を適正に価格に反映できる仕組みを築いてほしい」と総裁選を経た上での変化に期待した。