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福島県の大熊中校歌体操曲に 震災当日卒業の鍼灸師・堀本大樹さん29 伴奏曲で復活、避難者つなぐ

2025.09.24 11:25
どのような振り付けにするか体操しながら考える堀本さん

    大熊中校歌
      作詞 和田 甫
      作曲 天野秀延

一、柏のわかば 陽に映えて
  えんじは匂う 旗の色
  学びや清き 丘の上
  真理を求め われらゆく
  われら われら 大熊中

二、呼べばこたえる 太平洋
  紫金輝く 阿武隈や
  若き力と 理想こそ
  未来をきずく わが誇り
  われら われら 大熊中

三、かげろう燃える 梨の花
  流れて清き 熊川や
  樅の木立は かげふかく
  わが故里は 幸多し
  われら われら 大熊中


 東京電力福島第1原発事故により閉校して歌われなくなった福島県大熊町の大熊中校歌が、健康体操の伴奏曲としてよみがえる。東日本大震災の発生日に、この歌を胸に刻んで卒業した鍼[しん]灸[きゅう]師堀本大樹さん(29)が、望郷の念を募らせている避難者らのために企画した。

 柔道整復師と鍼灸師の資格を持つ。いわき市で暮らしながら双葉町に構えている施術室で週2回、鍼灸やマッサージを施し、出張整体もしている。利用客には大熊町民が多く、施術中の話題は古里の思い出が中心になる。

 「(復興に向けたまちづくりで)大熊の街並みが変わった」「大熊を思い出す機会が欲しい」。身の上話を重ねるうち、生まれ育った地域への思いを吐き出していく。「大熊への思いを深め、町民と町を何とかつなぎ留めたい」。同郷のよしみが、やる気を奮い立たせた。

 自分に何ができるか、アイデアを巡らせた。健康づくりに関わる者としてひらめいたのが「大熊を懐かしんでもらえる体操」だった。町民になじみのある曲に合わせて体を動かせば、「郷土愛を取り戻せるとともに、健康維持にもつながる」との考えが浮かんだ。

 多くの町民が知っている大熊中の校歌が伴奏曲にふさわしいと感じた。1973(昭和48)年4月に創立し、閉校する2022(令和4)年3月まで約50年の歴史がある。震災と原発事故発生当時、町唯一の中学校だった。歌詞には熊川や太平洋、ナシなど町の魅力が表現されている。自身も日々の学校生活でメロディーに触れ、卒業式でも同級生と心一つに歌い上げた。閉校に伴い校舎は解体され、校歌が流れる機会は失われた。「学校の歴史と記憶の継承にもなる」

 体操の振り付けは町民の体の悩みを聞いた上で決める。今月からインターネット上で町民アンケートを始め、施術中にも直接聞き取っている。現時点で40件ほどの回答が寄せられ、多くの人が首や肩、腰に不調を抱えているのが分かった。これらの部位に効果のある動きを取り入れ、年内の完成を目指している。ラジオ体操のように老若男女が楽しめ、体全体がリフレッシュできる3分程度の運動にする。

 町内の公共施設などに町民を定期的に集め、体操を広く発信する予定だ。高齢者が多く暮らす町の健康増進や、避難先で生活を送る町民との絆の維持にもつなげていく。

 将来、大熊に戻り、整体院を開くのが夢という。「少しでも町民が大熊で元気に生活できる手助けをしていきたい」。古里の明るい未来を見据える。


 体操の振り付けを考えるのに役立てる大熊町民向けアンケートは、10月6日まで受け付けている。体の悩みや、不調を抱えている部位を聞いている。問い合わせは堀本大樹さんへ。