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【ふくしま創生臨時支局・福島県古殿町】古殿の酒造り支えたい おざわふぁーむ 小沢嘉則さん 42 蔵元と二人三脚で

2025.09.26 09:24
コンバインで酒米の稲刈りに取り組む小沢さん

 主食用米の価格高騰で、農家の酒米生産意欲低下が懸念される中、福島県古殿町でコメやブドウを生産する「おざわふぁーむ」の小沢嘉則さん(42)は今年、酒米の作付面積を増やした。日本酒を生産する地元酒蔵への思いと農家としての使命感が選択を後押しした。酒米自体の価格も高騰している上、今後も主食用米への転作が続けば酒蔵はさらに苦境に立たされる。「地元の酒造りを支えたい」と誓っている。


 9月上旬、古殿町の水田ではコンバインを走らせ稲刈りする小沢さんの姿があった。約10ヘクタールの水田のうち、1・3ヘクタールが酒造好適米だ。今年は県オリジナル酒米「福乃香」の作付けを0・2ヘクタールほど増やした。全量がJAを通じ、町内唯一の酒蔵で、日本酒「一[い]歩[ぶ]己[き]」などを生産する豊国酒造に届く。

 一般的に酒米は栽培に高い技術が求められ、収量が少ないとされる。このため、付加価値が高く、主食用米よりも高値で取引されてきた。ただ、農林水産省によると、2023(令和5)年産で約1万円の差があった主食用米(相対取引価格)と山田錦(兵庫県産)の差は2024年産で約2千円まで縮小した。

 小沢さんと集荷業者との取引では、2024年に主食用米の価格が酒米を上回る逆転現象が起きた。酒米の栽培をやめて主食用米に切り替える農家も出てきたという。「売る方からすれば高く買ってもらえるものを作った方が良い。小規模農家は赤字経営が多く、転作する農家がいるのも分かる」と指摘する。

 そんな中でもあえて作付けを増やしたのは、地元酒蔵への強い思いがあるから。農閑期は豊国酒造で蔵人として働くなど10年来の付き合いだ。「主食用米の方が高いから、という理由で酒米の作付けをやめることはできない」と話す。

 「需要があるところにコメを届けるのは農家の使命でもある」と小沢さん。日本酒原料の安定供給に向けて来年以降も酒米の作付けを増やすという。「地元産のコメで日本酒を造りたい。蔵元と二人三脚でやっていきたい」と言葉に力を込めた。


■価格高騰で「日本酒離れ」懸念

 農林水産省が春に公表した2025(令和7)年産の作付意向調査では、主食用米が128・2万ヘクタールで前年比2・3万ヘクタール増えた一方、酒米を含む加工用米は0・3万ヘクタール減の4・7万ヘクタールだった。収穫は減り、酒米価格は高騰している。上昇分を酒の販売価格に反映すれば、「日本酒離れ」に拍車がかかる懸念があり、酒蔵関係者を悩ませている。

 県酒造組合は毎年、加盟する酒蔵が必要とする酒米の量をとりまとめ、JA全農福島などから一括で調達している。組合によると、県オリジナル酒造好適米「福乃香」や「夢の香」の仕入れ値は前年比約7割上昇している。

 両銘柄の仕入れ値は共に1俵(60キロ)当たり2万8500円。前年と比べて「福乃香」は1万1500円(67%)、「夢の香」は1万2100円(73%)の増額。主食用米の増産に伴い、各蔵が求める両銘柄の希望量の確保は厳しい可能性がある。

 県酒造組合の渡部謙一会長(60)=南会津町・開当男山酒造=は「適正な価格転嫁は容易ではなく、各酒蔵の資金面は厳しくなる。製造量や精米歩合を変えるなどの工夫が必要になる」と話している。