東京電力福島第一原発の事故から2カ月がたった10日、川内村の村民は一時帰宅に臨んだ。やっとかなった2時間だけのつかの間の帰宅。防護服を着たままという不便さの中で、位牌(いはい)や預金通帳、住所録、血圧計などそれぞれの大切な品物を持ち帰った。古里へ戻ったというにはあまりに短い。「次はいつになるのか」というため息も聞こえる。予想以上に作業がしづらいなどの新たな課題も浮き彫りになった。
3月12日以来、約2カ月ぶりの帰宅。会社員の坂本友良さん(51)は母ミサさん(80)の願いを忘れないよう、真っ先にブローチやネックレスなどの貴金属を取り出した。「8月のめいの結婚式につけるから」と頼まれた。
坂本さんはミサさんと共に避難所を転々とし、3月18日からは千葉県柏市に住む弟庄司さん(48)宅に身を寄せている。一時帰宅は庄司さんと2人で参加することにした。午前3時すぎ、柏市を車で出発した。午前8時前には集合場所の川内村総合グラウンドに到着。懐かしい顔が集まってくる。自然に笑みがこぼれた。
防護服でたどりついた自宅玄関で、「ルー(犬)をあずかっています」と隣人の走り書きを見つけた。ほっとした。着替えやアルバム、香典台帳、父庄吉さんの位牌などをテーブルに集め、冷蔵庫や保冷庫の傷んだ食品の後片付けに時間を費やした。
原発事故の収束時期は見えない。いつ戻れるか分からない。友良さんは首都圏で経理の仕事を見つけようと、千葉市の職業訓練校に入校した。「(自宅に戻れるのは)これで最後かもしれない。それがビニール袋1枚分とは...」。あまりのやりきれなさに、最後は古里の風景が涙でかすんだ。
■早く帰りたい」住民、思い募らせ
一時帰宅を終えた住民は、家族の写真や夏服など思い思いの物を持ち帰れたことに安堵しつつ「早く自宅に帰りたい」という古里への思いをさらに募らせた。
自営業の関根光晴さん(60)は夫婦のランニングシューズを持ち出した。村内の林道を走ることが趣味だったが現在は栃木県内に避難中。「履き慣れたシューズで夫婦でランニングを楽しみたい」と笑顔を見せた。
「安心した。家がどうなってるか心配で眠れなかったから」。額入りの孫の写真を抱えた草野勝利さん(66)はほっとした様子。「長引くならパソコンなど持っていきたい物はたくさんある。年3、4回、自家用車で行けるようにしてほしい」と願った。
新潟県に避難している秋元トヨ子さん(67)は、日本酒や手作りの梅干しを持ち帰ったが、食品のため没収された。「別のものを持ってこられたのに」と肩を落とした。
荒れた家の片付けや掃除をしてきたという人も多い。雑草が生い茂り、閉め切った家の中は湿気でむせ返るようだったという。松本芳彦さん(82)は「2時間はあっという間。屋根瓦が割れていたが、修理できなかった」と悔しそうに語った。
■避難住宅巡回愛犬など保護
県と環境省は10日、川内村の一時帰宅に合わせて避難住民宅を巡回し、ペットの持ち出しを行った。同日は犬9匹と猫3匹を保護した。
住民の要望があったことから、職員が可能な限り持ち出した。県の施設で一時預かり、住民が後日、引き取れるようにする。同日に保護できず、住民がつなぐなどしたペットについては11日に再度立ち入り、対応する。
■盗難届はゼロ
県警によると、この日の一時帰宅に関連した盗難届は10日午後5時現在でゼロとなっている。
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