東日本大震災アーカイブ

「調整率」に期待と注文 不動産関係者 風評被害など懸念

 平成23年分の県内路線価が発表された1日、東日本大震災の影響を反映させ、被災者の税負担を軽減するため適用する「調整率」に期待と不安が交錯した。どの程度、相続税、贈与税算定の基準になる路線価が引き下げられるかは不透明。親を亡くし土地の相続税がのしかかる浜通りの被災者は「本当に路線価は下がるのか」と先行きを注視し、税の免除を求める。一方、路線価は土地の価格とも連動しており、不動産関係者などは「一層の地価下落を招きかねない」と懸念する。
 「立ち入りできない土地の税金を納めるなんてあり得ない」。津波で両親を失った南相馬市小高区の無職宮口公一さん(54)は憤る。
 宮口さんは警戒区域内にある父親名義の宅地や農地、山林など合わせて10アールの土地を相続登記する予定だ。避難所生活が続き、今は収入もない。「調整率で、どの程度の救済になるか気になる。津波の被害に遭った土地は買い上げも検討してほしい...」と注文する。
 猪苗代町に避難中の双葉町の農業中野守さん(85)は約2ヘクタールの田んぼを持つ。「こんなことになっては、息子も欲しがらないだろうが、税を軽減するというなら調整率はゼロにしてほしい」と訴える。
 いわき市に避難している富岡町の会社員男性(52)も、原発周辺地域はゼロにすべき、との考え。「国の対応は震災後、腰が据わってない。今回のことも本当に対応してくれるのかどうか...」と不安そうな表情を浮かべた。
 浪江町の畜産業大場昭子さん(69)は、地元で飼っていた牛を置いて福島市に避難している。今は全く収入がない状態だ。「牧草地を所有しており息子に相続してやりたいが、負担がかかるのは避けたい。相続税はなしにしてほしい」と願った。
 「調整率」の適用について、不動産関係者からは土地取引への影響を懸念する声が出ている。
 全国宅地建物取引業協会連合会の藤田勝太郎常任相談役(福島市)は調整率の必要性を認めながらも「路線価と地価は相互に作用しており、調整率が適用された土地の価格下落は避けられないだろう」と分析する。その上で「適用対象は最小限にしないと、経済活動に影響が出るかもしれない」と土地の担保価値の低下を懸念する。
 県内には福島第一原発事故で放射性物質が拡散している。県宅地建物取引業協会の安部宏会長(同)も「調整率そのものが、問題ある土地という風評被害になりかねない」と懸念した。
 一方、県不動産鑑定士協会の鈴木禎夫副会長(郡山市)は、調整率の適用を歓迎している。「残念だが、県外の人にとって福島県の土地の魅力はすでに半減してしまった。それならば、被災者を十分に救済したほうがいい」と話す。
 一方、不動産業を営む菊地和義会津若松市商店街連合会長も調整率の適用を前向きに捉え、地下が下落した場合、ある程度土地取引が増えると予測。「国は被災者が物件を購入しやすいように固定資産税などの税制も見直すべきだ」と注文した。
 商業者にとっても調整率の動向は気掛かりな問題。相馬市連合商栄会の只野裕一会長は「適用は地価下落につながる恐れがあり、担保価値が下がることが心配だ。売り上げが減少して厳しい商いをしている被災地を救うために、特区や時限立法による本格的な救済が必要だ」と訴えた。

カテゴリー:福島第一原発事故