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【県産肉牛の出荷再開延期 】畜産農家、遠のく希望 行政に届かぬ苦悩

牛の体調を気遣いながら世話をする橋本さん

 畜産農家の苦悩の日々が続いている。県産肉牛の出荷再開が延期となった19日、飼育牛の体調管理に気を配り、身も心もすり減らし続けてきた関係者は肩を落とした。出荷停止の1カ月間、県内では約1500頭が出荷適期を過ぎた。処理施設は限られ、流通が進む保証はない。風評被害で子牛は大きく値を下げている。出荷停止解除というやっと見えた光もまた遠のいた。

■人生の岐路

 「もう、やめてしまおうか」。牛舎の作業の合間、伏し目がちに、ひたすら自問自答を繰り返す1カ月間だった。大玉村で肉牛24頭を肥育する農業橋本勘一さん(62)。6頭の出荷を留め置かれている。

 セリに向け餌を増やした牛は丸々と肥え、足元に大きな負担が掛かる。体調を崩しやすくなる。「何とか無事でいてくれ。耐えてくれ」。30度を超える蒸し風呂のような牛舎に通い、2年近くも手掛けた1頭1頭を祈るようになで続けた。

 出荷再開延期のニュースで、また心がふさぐ。福島産の需要が戻るかどうか見通しが立たない。原発事故を引き起こした東京電力からの賠償が確実に手元に入るのか情報がない。「俺達の苦しみなんて、行政には少しも届いていない」。物静かな表情が、少しだけゆがんだ。

■あの日に帰りたい

 風評被害も絡み、出荷停止の1カ月間で市場の様相も大きく変わった。

 月1度、子牛の競り市が行われる石川町の石川家畜市場。原発事故の発生前、1頭当たり40万円前後だった取引価格は、既に採算ラインの35万円を下回っている。町内で子牛11頭を育てる繁殖農家の小豆畑(あづはた)一江さん(58)は7月のセリに2頭を出荷した。本来なら80万円になるはずだが、手元に入ったのは55万円ほど。9月のセリにも2頭を出すが、さらに価格は下がるとみている。

 赤字だが畜産を廃業する気はない。「この年になったら商売を替えることなど、もう無理だ。笑顔でセリに通った、あの日に帰りたい」。

■踏み切れぬ投資

 棚倉町の沼野博さん(60)が飼育する200頭のうち、生後29カ月を経過した30頭は県の買い上げ制度の対象になる。

 しかし、1頭当たりの価格は約80万円で、餌代やセリでの購入費などを差し引けば1銭も残らない。地元のJAを通じて東電に損害賠償を請求しているが、仮払いも行われていない。

 先行きが見えないだけに、新たな子牛を買う「投資」には容易に踏み切れない。「このままだと福島の畜産農家は壊滅するよ」。吐き捨てるようにつぶやいた主人の後で、猛暑に耐える1頭が苦しそうにうめいた。

出荷時期は、順番は 県や畜産団体続く不安

 政府は19日、セシウムが検出された肉牛について詳細な汚染の経緯が判明するまで出荷停止を継続する方針を打ち出した。一時、解除の考えを示していただけに、県関係者には落胆が広がった。ただ、出荷が再開された場合でも課題は山積している。

■肩すかし

 県畜産課には18日夜、週内にも出荷停止が解除されるとの情報が駆け巡った。出荷の適期を過ぎた肉牛も増えていただけに、課内は「朗報」に沸いた。
 しかし、翌日には一転の延期。セシウムが検出された牛肉は出荷停止以前に解体されたサンプルだっただけに、同課職員は「出荷解除の判断には影響しないはずなのに...」と不満を口にした。

■順番

 「処理する順番で、もめるケースも出るだろう」。畜産関係団体幹部は出荷再開後をにらみ、不安を口にする。

 一カ月に及ぶ出荷停止期間中、県内では約1500頭が出荷適期を過ぎた。県内唯一の処理施設である郡山市の県食肉流通センターで対応できるのは1日36頭。県は出荷再開の際、各農家の出荷1頭目は同センターで解体する方針を打ち出している。ただ、出荷待ちの時間が長い牛を優先する案や、肉質の良い牛から開始する案など意見が分かれ、出荷団体間で整理がついていない。

 畜産農家は出荷を待ちわびているだけに、JA関係者は「団体や農家の思惑が絡み、どこから手を付けるか一筋縄ではいかないだろう」と厳しい見立てをしている。

■二段構え

 県は県産肉牛の安全に万全を期すため、県内で全頭検査を実施し、県外でもあらためて行う二段構えの検査態勢を取る。全国市場での取り引き回復が狙いで、県は他の都道府県の理解を得るよう国に求めている。しかし、明確な返答はなく、安全性アピールの切り札となる「二段検査」を実施できるかどうか不透明な状況だ。

 風評被害も深刻だ。果物の出荷時期を迎え、県内産は前年に比べ全国の市場で大きく値を下げている。JA福島中央会の川上雅則参事は「県産牛の安全性を確認できたとしても、全国の消費者にいかに納得してもらうのか高い壁が立ちはだかる」と話した。

【背景】
 放射性セシウムを含む稲わらが肉牛に餌として与えられていた問題で、政府は7月19日、原子力災害対策特別措置法に基づき、本県に肉牛の出荷停止を指示した。県は翌日から畜産関係団体とともに、解除の条件となる「品質管理計画」の策定を進めた。肥育農家314戸などに影響が及び、肉牛を市場に出せない事態となった。県の推計では、1500頭が出荷適期を迎えたまま牛舎で待機状態となっている。

カテゴリー:3.11大震災・断面

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