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【先見えぬ山林除染】 鮫川・ 落ち葉堆肥化暗礁 南相馬・水質検査の要請増

良質な木材産地として知られる東白川地方のスギ林。除染の見通しが立たず、林業関係者にいら立ちが募る=18日

 東京電力福島第一原発事故で拡散した放射性物質は県内の山林にも付着し、中山間地の市町村や住民の暮らしに影を落としている。鮫川村では地域活性化の期待を込めた落ち葉による堆肥製造事業が暗礁に乗り上げた。「山林の湧き水が井戸水に入り込んでいる可能性はないのか」。南相馬市では市民から水質検査の要望が殺到している。国は山林除染の有効な方法を示しておらず、自治体や林業関係者らのいら立ちは募るばかりだ。

■窮地

 「5年越しの計画のスタートが台無しにされてしまった」。鮫川村農林課職員は村が独自に分析した村内の落ち葉の放射性物質検査結果を手に、憤りを隠さない。1キロ当たりの放射性物質濃度は8500ベクレル。農林水産省が定めた肥料の暫定許容値は400ベクレルで、既に原料の段階から基準を大きく上回っていた。

 地域の有機性資源「バイオマス」の活用事業を進める村は、平成19年度から落ち葉の収集と堆肥の開発試験を繰り返してきた。お年寄りらが集めた落ち葉を買い取り、出来上がった堆肥は村内の農家に販売する計画だった。来年度から村内の施設で本格的に製造が始まる予定で、平成22年度までに14トンの落ち葉が集まっている。しかし、高濃度の放射性物質が検出され、総事業費約3億円を掛けた堆肥製造事業は窮地に追い込まれた。

 今年の落ち葉は堆肥に使えないが、村は回収することで山林の放射線量低下につなげようと、独自の除染作戦に乗り出す。しかし、村の約8割を占める1万ヘクタールの山林全てで作業を終えることができるか、どれほどの時間を要するのか見当もつかない。さらに、落ち葉の仮置き場をどこに設けるか住民との協議は難航することも予想される。

 大楽勝弘村長は「バイオマス活用事業には村の生き残りが懸かっている。当面の堆肥作りは断念しても、必ず放射性物質を村から取り除く」と意気込むが、ゴールは見えない。

■手が回らず

 南相馬市環境衛生課の電話が鳴り響く。「早く検査してくれ。安心して水が飲めない」。井戸水の水質検査を求める要請は6月ごろから増加を続け、18日までに3200件を超えた。市が単独で予定している今年度中の検査は850件。政府や県とも連携して検査を進めているが、人員や機材も限られていることから、このまま増え続ければ、全ての依頼に応えることは容易ではない。

 市内は原発事故の警戒、緊急時避難準備、計画的避難の各区域と特定避難勧奨地点が混在しており、市民は山林に積もった放射性物質が地下に染み出て井戸水に浸透する可能性に不安を覚える。原町区で農林業を営む男性(73)は「水は命の源。山林を本格的に除染してもらえないと、安心して暮らすことなどできない」と訴える。

 市は今月初め、除染対策室を設け、市内の除染計画作りを急ぐ。しかし、学校、病院などの公共施設や住宅地が優先され、山林はどうしても後回しになる。羽山時夫市長公室除染対策室長は「山林を除染する必要性は十分、認識している。しかし、広大で手が回らないのが実態だ」と嘆く。

「切り捨て」危惧 困難を極める作業

 県土の7割を占める山林の除染は、県民生活にとって避けて通ることはできない課題だ。しかし、住宅や道路など生活空間や局地的に放射線量の高い「ホットスポット」対策が優先されるのが現状で、山林で働く林業関係者から「切り捨てられる」との不安の声が上がる。

■山奥は

 国有林と民有林を合わせた県内の森林面積は約97万ヘクタール。浜通りと中通りを中心に放射性物質が土壌と木々や枯れ葉に付着しているとみられるが、県は山林除染について明確な方針を打ち出せずにいる。政府は除染実施ガイドラインをまとめたが、山林の除染については効果的な手法を示していないためだ。

 さらに、政府の「緊急実施基本方針」には、県が管理する施設の除染は県の役割と明記された。市町村が除染計画を作る年間積算放射線量が1~20ミリシーベルトの区域について、県は市町村と協議しながら県道や河川、学校や公園をはじめ局地的に放射線量の高い場所などでの作業態勢づくりを急がなければならない。生活空間の除染すら終了時期は見通せず、山林の作業に至っては着手のめどが立たないのが実情だ。県災害対策本部の職員は「町の中だけで手いっぱい。山の除染まで考えられる状況にはない」と打ち明ける。

 山林の場合、除染の仕方もやっかいだ。背丈の高い樹木に付いた放射性物質をどうやって取り除くか、土砂を山からどのように搬出するかなど名案はない。森林の汚染状況を調査した筑波大の恩田裕一教授(環境科学)は「スギ林なら伐採が一番効率的だが、森林の用途やコストなどさまざまな観点から検討する必要がある」と指摘する。

 東白川郡森林組合の森元良参事は「山奥には車も人も入れず、作業は困難を極めるだろう。全ての除染は事実上、不可能」と言い切る。

 除染の見通しが立たない中、スギなど優良木材の供給地となってきた東白川郡内の林業関係者はいら立ちを隠せない。木材業に関わる男性は「放射性物質が付いた木材は使ってもらえない。われわれは見殺しにされるのか」と怒りをあらわにする。

■トラブル

 行政の進める除染の範囲には限界が見える。こうした中、産業廃棄物収集・運搬業者、ビルメンテナンス業者ら六社による県放射性物質除去協同組合が設立されるなど、企業の参入も目立ってきた。

 しかし、心配されるのは発注者と業者間のトラブルだ。現在、「除染ビジネス」に関する法規制は設けられていない。このため、期待した効果が得られない場合などに限っては料金の支払いをめぐり、もめ事が起きることも想定される。

 協同組合は発注者ときめ細やかな事前打ち合わせを行った上で作業契約を結ぶ方針だ。ただ、多くの業者が除染ビジネスに乗り出す動きを踏まえ、「依頼する側にも契約内容の十分な確認が求められる」と訴える。

 一方、除染作業の民間委託が増えるにつれ、作業能力や十分な機材を持たない悪質業者の横行を懸念する声も出ている。県警幹部の一人は「県や市町村などの発注者側に業者の請負能力を厳しくチェックする機能が必要ではないか」と指摘する。県生活環境部の職員は、自治体や民間の発注者が「第三者」に作業の品質確認を依頼する仕組みづくりが必要との見方を示す。

【背景】
 政府の原子力災害対策本部が8月に発表した市町村向けの除染実施ガイドラインには、実施対象箇所として生活圏、森林などが位置づけられた。しかし、森林は面積が広く膨大な除去土壌が発生することなどから、手法は明示されなかった。文部科学省が行った森林の汚染状況調査では、放射性物質は主に地表付近と樹木の葉に蓄積することが明らかになった。広葉樹に比べ、常緑樹のスギの葉に多くの放射性セシウムが付着していたという。林野庁は20日から森林で放射性セシウムの空間線量、土壌濃度に関する調査を始め、濃度分布地図を作製する。

カテゴリー:3.11大震災・断面

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