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【本県の観光産業低迷】国の支援予算なし 避難者減り旅館窮地

営業をやめた旅館からは灯(あか)りが消えた=16日午後6時5分ごろ、福島市土湯温泉町

 秋の行楽シーズンを控え、県内の観光関連産業の落ち込みが止まらない。風評被害の払拭(ふっしょく)に向け、福島支援を誓ったはずの観光庁の本県向け予算はゼロ。東日本大震災と東京電力福島第一原発事故の二次避難所となっていた旅館・ホテルは、避難所が原則閉鎖となったことから廃業に追い込まれるケースも出た。会津地方では7月の豪雨災害が震災に追い打ちを掛け、浜通りでは復旧作業員の宿泊場所と化す施設も現れている。観光復活の光明はいまだ見えない。

■本気度は?

 「本気で福島の観光産業を後押しする気はあるのか、大いに疑ってしまう...」。

 県商工労働部職員が首をかしげるのは、観光庁の対応についてだ。震災発生後、溝畑宏長官は五回にわたって来県。8月に会津若松市を訪れた際には、「教育旅行などと絡めた観光誘客を国内外に発信できるよう考えたい」と、世界中からの誘客に努める方針を強調した。

 しかし、国の一次、二次補正で本県の観光振興に向けた予算は確保されなかった。同庁の活動は、県が他都道府県を訪れ修学旅行の誘致活動を行う際、職員を同行させる程度にとどまっている。同庁観光地域振興課は「国民の生命・財産に直接関わる復興関係に予算が配分され、観光振興までには回ってこない」と歯切れが悪い。

■老舗が...

 福島市の土湯温泉。残暑厳しい16日、閉館した二つの旅館の玄関には、自己破産手続きに入ったことを告げる張り紙が張り出されていた。

 今夏、原発事故の風評被害で同温泉の一般客は大きく落ち込んだ。各旅館は浜通り地方からの避難者を受け入れる二次避難所となり、1日一人当たり5千円の避難所借り上げ費で窮状をしのいできた。しかし、ピーク時で千人いた避難者も現在は50人ほどに。土湯温泉観光協会の担当者は「避難者の減少で、経営見通しが立たなくなる旅館は今後も増える恐れがある。温泉全体がさらに冷え込んでしまう」と不安を隠し切れない。

 震災発生前に22軒あった土湯の旅館は16軒となった。二本松市の岳温泉では、老舗二軒が消えた。会津地方や浜通りの温泉地でも、関係者は廃業する旅館・ホテルが現れる事態を懸念している。

 原発事故の損害賠償が全く進んでいないことが「経営難に拍車を掛けている」との指摘もある。

 県旅館ホテル生活衛生同業組合によると、加盟の旅館・ホテル約630軒が5月上旬までに予約キャンセルによって受けた損害は約68億円に上る。8月に出された国の原子力損害賠償紛争審査会の中間指針では、県内観光業の風評被害も賠償の範囲に含まれた。しかし、東電側が賠償の請求様式をいまだに示さないため、賠償手続きは滞ったままだ。

誘客どうすれば 会津や浜通り危機感あらわ

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営業を再開したアクアマリンふくしま。しかし、入り込みは昨年に遠く及ばない
 秋の観光シーズンが間近に迫ったが、会津地方には今夏の豪雨被害の爪痕が深く残る。大津波と震災の影響で浜通りの名勝は大きく姿を変えた。

■追い打ち

 7月に襲った豪雨が、紅葉の秋を控えた奥会津の観光に暗い影を投げ掛けている。

 鉄橋が流出した影響などで、JR只見線は三島町の会津宮下駅以西で復旧の見通しが立っていない。風評被害で、春の観光シーズンに観光客が激減した金山町の関係者は、紅葉の秋に期待をかけていた。沼沢湖や湖畔の美術館を巡るコースは例年、人気を集めているが列車運休などで今年は問い合わせも少ないという。

 金山町観光情報センター長の吉川幸宏さん(49)は、「風評被害を挽回する絶好の機会だった。打つ手が見当たらない」と、列車発着の途絶えた駅のホームを恨めしげに見詰める。

 奥会津地方はこれから「山の幸」に恵まれる。10月はマツタケやマイタケ、シシタケなどキノコの収穫期だが、今年は少し様子が違う。金山町産業課は来週にも県に町内で採れたキノコの放射性物質検査を依頼する。県内では出荷停止処分が拡大しているだけに、担当者は「安全性を確認しても、消費者の不安を完全に取り除くことができるかどうか分からない。キノコを買い求める客足が遠のく事態は避けたいが...」と顔をしかめた。

 豪雨災害後、下郷町の大内宿観光案内所には道路状況を問い合わせる電話が数件寄せられたという。喜多方観光協会は「豪雨の被害を聞いて会津地方への観光を取りやめたという観光客もいる」とみている。

■冬の味覚は

 今夏、海水浴やサーフィンを楽しむ観光客が消えた相馬市の沿岸部。松川浦の海岸線は津波で壊れ、砂浜にはがれきが広がる。

 こうした中、旅館・ホテル約50軒のうち震災の被害が少なかった約20軒が営業を再開した。しかし、宿泊客のほとんどは、道路や港湾関係の復旧工事のため全国から集まった作業員だ。市観光協会の担当者は「海を観光資源として再び売り出せるまでには数年かかる。復活の日は遠い」と肩を落とす。

 いわき市小名浜のアクアマリンふくしまは15日、再オープンから二カ月を迎えた。入館者は大きく落ち込み、営業再開からの一カ月間の人出は前年同期より約14万人少ない約6万人だった。首都圏など県外からの入り込みが落ちているという。

 いわき市は名物のアンコウ料理を振る舞う冬の観光シーズンが控えている。しかし、今年は原発事故による漁船の操業停止で、旅館・ホテルは県内産のアンコウをはじめカニ、タラなどを入手できる見通しは立っていない。観光団体関係者は「このままでは、冬場の誘客に向けた新たな戦略を立てることも難しい」と危機感を募らせている。

【背景】
 県は毎年、鶴ケ城やアクアマリンふくしま、あぶくま洞、道の駅といった県内の観光施設九カ所を訪れた観光客数の定点調査を行っている。今年4月から8月までの五カ月間は91万人で、昨年を112万人下回った。一方、県が二次避難所に指定した旅館・ホテルは6月2日現在、541カ所で避難者は約1万8千人に上った。しかし、避難所の原則閉鎖に伴い今月12日現在では236カ所、約3200人にまで減少している。

カテゴリー:3.11大震災・断面

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