■計画的避難区域 飯舘
火災が発生しやすい冬場を迎え、住民が避難を余儀なくされている計画的避難区域で行政、消防関係者は水田の草刈りやパトロールの強化などの対応に追われている。消防態勢が手薄な中、枯れ草や民家から出火すれば、大規模な火災につながりかねないからだ。防災関係者らを除き、立ち入りが禁止されている警戒区域を管轄する消防関係者も発見の遅れから被害が拡大することに警戒を強めている。
■分署15人体制
計画的避難区域の飯舘村では、先月上旬、米の作付けができなかった田んぼの雑草が高さ1メートルほどになっていた。村には相馬地方広域消防本部の南相馬消防署飯舘分署があり、15人体制でカバーしている。「延焼すれば、分署だけでの対応は難しくなる」。署員らは危機感を募らせる。
村は火災の危険をできるだけ取り除こうと、20の行政区ごとに水田約1000ヘクタールの除草に踏み切った。国からの交付金約4000万円を活用し、トラクターに取り付ける約100万円の除草機器を新たに13台購入。行政区が所有していた除草機器と合わせて約20台を使い、村が雇った村民らが約1カ月がかりで雑草を刈り取った。
しかし、事業の対象外の畑や耕作放棄地、あぜ道の除草費用は確保できず、手が回らないのが現状だ。
■通行者に啓発
南相馬市と川俣町を結ぶ県道原町川俣線沿いなどでは枯れ草が道路まではみ出している。「もしドライバーがたばこを投げ捨てたら」。村と消防関係者の懸念は消えない。
南相馬消防署飯舘分署は今月9日から15日までの秋の火災予防運動を前に、縦60センチ、横30センチの「火の用心」の看板90枚を作った。県道や国道の目立つ場所に掲示し、通行車両の目に留まるようにした。
星代4行分署長は「たばこの投げ捨ては絶対にしないでほしい。一時帰宅した村民が、いらないごみなどを処分するため、たき火をすることも心配だ」と訴える。
■監視依頼
村外から通勤しての操業が認められている7事業所の従業員約600人を除き、村内はほぼ無人状態が続いている。
村は、20行政区ごとに24時間態勢で防犯パトロールをしている「いいたて全村見守り隊」約380人に、火災通報の役目も担ってもらうことにした。荒利喜村消防団長ら団員4人も隊員に加わっている。
相馬地方広域消防本部は、村内で操業する菊池製作所、ハヤシ製作所で働く消防団員数10人にも消火活動への協力を依頼した。両社の団員用に、村公民館に長泥地区、村役場には比曽地区の消防車を待機させた。蕨平地区の消防車については今後、見守り隊が防犯活動に使うことにした。
村の担当者は「できるだけ多くの村民が目を光らせることで、火災の早期発見につなげたい」と話す。
【背景】
東京電力福島第一原発から半径20キロ圏内で発生した火災は東日本大震災以降、11月14日までに14件ある。双葉地方広域消防本部管内で建物火災が12件とその他火災が1件、相馬地方広域消防本部管内では枯れ草火災が1件。乾燥時期の11月から翌年の5月末までは火災が多発し、特に林野火災が増加する。平成21年は1月から5月までの5カ月間で81件起き、98件だった年間の発生数の約80%を占めた。飯舘村内は5月1日以降、6件の火災が発生した。落雷が原因とみられる民家火災や堆肥が自然発火するなどした建物火災が3件、車両火災が2件、枯れ草火災が1件。
■限界感
「住民不在の警戒区域で火災が発生すれば、被害はどのぐらいになるのか」。双葉地方広域消防本部の安倍一夫消防課長は不安を隠せない。
警戒区域内の消防署は東京電力福島第一原発事故後に避難した。火災が発生した場合、双葉地方広域消防本部管内は富岡消防署の楢葉分署または川内出張所、相馬地方広域消防本部管内は南相馬消防署から出動する。火災の規模が大きければ、計画的避難区域を含め、県代表消防本部の福島市消防本部が各消防本部の意向を調整し派遣隊を編成する。しかし、双葉、相馬の両消防本部が応援派遣を要請しても応援隊が到着するには早くても30分はかかる。
双葉、相馬の両本部は火災の早期発見に向け、警戒区域内をほぼ毎日、パトロールし、住民が一時帰宅した地域では、必ず巡回点検をしている。だが、がれきの集積場では、自然発火なども考えられる。「消防士の人員が限られる中、どれだけ早期に火災を見つけられるのか」。消防関係者の1人は警戒活動の限界感をにおわせる。
放射線による消防士の健康への影響も課題だ。14日、福島市で開かれた消防長らによる会議では、応援隊員は防護マスクや空間線量計を装備し、放射線被ばく量を1日1ミリシーベルト(やむを得ない場合は5ミリシーベルト)、年間20ミリシーベルト、5年で100ミリシーベルト以内に徹底することを決めた。
■難しい判断
警戒区域の消火栓や防火水槽の消防水利施設は東日本大震災や大津波で破損し、多くが使用できないまま放置されている。双葉地方広域消防本部管内では、警戒区域にある全ての消火栓1407基が使用不能だ。
消防車に積載した消火水だけで間に合わない場合、近くの河川や学校プール、防火水槽などから火災現場までホースで中継するしかない。
相馬地方広域消防本部の関係者は「火災の規模、消防士や車両の数、水利施設の状態などさまざまな要因を見極めなければならない」と判断の難しさを指摘する。
(カテゴリー:3.11大震災・断面)