東日本大震災

「3.11大震災・断面」アーカイブ

  • Check

【食品新基準案了承】「農家つぶす気か」 生産者 落胆 緩和の願いかなわず

多くの農産物が並ぶスーパー。新たな基準値による本県産の生鮮食品への影響が懸念される=16日、福島市

 「いきなり100ベクレルにするのは厳しすぎる」-。文部科学省の放射線審議会が食品の新基準値案を了承した16日、基準の緩和を求めていた県内の生産者らに落胆が広がった。本県産の農産物の流通への影響を懸念し、柔軟な運用を求める意見が付されたが、「生産者の意見はどのように反映されるのか」との疑問が渦巻く。一方、消費者は「食品への不安が減る」と基準値の厳格化を歓迎した。

■いきなり100ベクレル
 「消費者の安心を考えて厳格化するのも分かるが、いきなり500ベクレルから100ベクレルでは厳しすぎる。農家をつぶす気か」
 川俣町で稲作をしている農業男性(70)は悲鳴を上げた。男性の地区では、平成23年産米から1キロ当たり100ベクレルを超える放射性セシウムが検出された農家が出ただけに、今後のコメ作りに不安を隠せない。
 答申では、「地元の生産者らの意見を最大限尊重して運用すべき」との意見が付いた。農家の多くは審議会の対応を評価する一方で、「新基準値の緩和の可能性を示しているのか」「別の方法での生産者救済を意味しているのか」と疑問の声も。伊達市霊山町の農業岡崎勝弘さん(64)は「生産者の意見はどのように反映されるのか。あいまいだ」と不満げに話した。
 3月中旬には作付けに向けた作業を始めなければならない。岡崎さんは「今年は作付けできるのか。生産者の意見を尊重するというなら、作付けを認めてほしい」と求めた。

■科学的根拠
 審議会は「新基準値をわずかに上回る食品を食べても健康への影響はほとんど変わらない」とした。
 小名浜機船底曳網漁協の前田久次長(59)は「100ベクレルがなぜ安全なのか科学的根拠がなければ、漁業者も消費者も理解できない」と主張する。県内では漁の自粛が続き、再開の見通しすら立っていない。「漁業者はさらに高いハードルを越えなければならなくなった」と厳しい表情を浮かべた。
 審議会は厳しい基準値による生産者への影響も指摘。委員の1人で、コープふくしま理事の佐藤理さんは「基準値を下げれば、結局は福島が拒否される」と訴えた。
 福島市出身で前原子力委員会委員長代理の田中俊一さん=県除染アドバイザー=は「本県の生産者の立場が反映されていない」と批判する。本県農業を支えるコメや果物などを作付けできなくなる農家が増えてしまう恐れがあるためだ。「基準値を下げたことで、従来の基準値への疑いも生じかねない」との見方を示す。
 JA新ふくしまの斎藤隆営農部長は「誰でも数値は低い方がいいに決まっている」と話し、「500ベクレル、100ベクレルの数字が示す健康への影響や対策など、誰の目にも分かる根拠がなければ、ただの数字の羅列でしかない」と吐き捨てた。

【背景】
 厚生労働省は東京電力福島第一原発事故を受け、昨年3月、食品に含まれる放射性物質の暫定基準値を野菜や穀物などで1キロ当たり500ベクレル、牛乳・乳製品、飲料水で同200ベクレルと設定した。内閣府の食品安全委員会の「被ばく線量が生涯累計でおおよそ100ミリシーベルト以上になると健康への影響が見いだされる」などの意見を踏まえ見直し作業に着手。同12月に一般食品を1キロ当たり100ベクレル、牛乳や乳児用品を同50ベクレル、飲料水を同10ベクレルに引き下げる新基準値案をまとめた。

カテゴリー:3.11大震災・断面

「3.11大震災・断面」の最新記事

>> 一覧

東日本大震災の最新記事

>> 一覧