仮設、借り上げ住宅の入居期間が2年間から1年間延長されることが決まった17日、東日本大震災や東京電力福島第一原発事故で避難生活を続ける県内の被災者に安心が広がる一方、長引く仮設住宅での暮らしに住環境の改善を求める声が上がった。原発事故による避難区域の帰還が見通せず、高台移転などが進まない現状を踏まえ、「生活基盤が出来上がるまで期限を切らず入居させてほしい」との要望も出た。
■足の踏み場なし
浪江町から福島市の仮設住宅に避難している会社員氏家良祐さん(56)は町への帰還が不透明な中、入居期間延長を歓迎する一方、「もう少し広ければ...」と室内を見渡した。
母滋子さん(83)と2人暮らし。4畳半の2間のうち、居間はテレビやこたつ、棚などでいっぱいだ。もう1つの寝室も足が不自由な母親の介護用ベッド、自分の布団、衣装ケース、ハンガーラックなどで足の踏み場もない。自宅は約60坪の敷地に建つ十部屋余の2階建て。「こんな生活がいつまで続くのか」と嘆いた。
同じ仮設住宅に住む浪江町の女性(41)は通気性の悪さを訴える。「湿気がこもってすぐにカビが生えてしまう」とうんざり顔だ。
家族5人で会津美里町の仮設住宅に暮らす楢葉町の無職女性(61)は「隣同士で気を遣う生活に正直言って疲れた」と打ち明ける。楢葉町の自宅は一軒家だったが、今は隣の家族との間には薄い壁1枚だけ。家族で大声で笑ったり、孫を叱ったりもできないという。
伊達市の仮設住宅に住む飯舘村の農業三浦国広さん(76)は震災前は自宅で妻、長男夫婦、孫の5人暮らしだったが、今は夫婦2人。国見町でやっと確保できた借り上げ住宅の部屋が狭く、長男家族に譲った。「我慢するしかないが、本当は同じ屋根の下で暮らしたい。3世帯で住めるような住宅を用意してもらいたい」
■当分帰れない
郡山市の仮設住宅に避難する富岡町の無職志賀清民さん(58)は入居期間の延長に「当然の対応。さらに延ばすべき」と訴える。「戻れてもかなり長い時間が掛かるはず」。自宅が津波で流された上、除染やインフラ復旧はほとんど進まない古里の現状を直視した。
三春町の仮設住宅に夫婦2人で暮らす葛尾村の無職松本寿夫さん(77)も「残り2年でも自宅に帰れるようになるかは分からない」との考えを示した。しかし、厳しい環境の仮設住宅で長期間、暮らす自信も持てないというのが本音。「きちんとした住宅に住めるような支援も検討してほしい」と注文した。
新地町の仮設住宅の主婦菅野いな子さん(62)は町内の海の近くにあった自宅は津波で全壊した。漁師の夫の仕事は再開の見通しが立たず不安が募る。「1年延長はありがたいが、住居だけでなく、幅広い支援を強化してほしい」と求めた。
いわき市の借り上げ住宅に住む団体職員遠藤守俊さん(67)も市内の自宅が津波で全壊した。高台移転構想が進むが、実際に居住可能になるのは早くても4、5年先だという。「3年に延びても、空白期間はどうなるのか」と不安を口にした。
■引き合い
福島市が仮設住宅に提供している市内の松川工業団地の分譲用地には現在、企業から購入の引き合いが寄せられている。関係者の1人は「入居期間の再延長があるかもしれない。先が見通せない以上、申し込まれても断るしかない」と複雑な胸の内を明かした。
震災前、同団地は景気低迷のため多くが売れ残っていた。しかし、県が今年度、復興を目的に、県内で新・増設する企業に最大200億円補助する制度を打ち出して以来、市には県内外の企業から立地に関する問い合わせが相次いでいるという。
(カテゴリー:3.11大震災・断面)