東京電力福島第一原発事故などで運営休止中の特別養護老人ホーム(特養)のお年寄りを受け入れている会津地方や中通りなどの施設で、定員超過状態が長期化している。県内134施設のうち、45施設で計171人定員を上回っている。定員超過は国が東日本大震災直後、避難者救済を目的に特例で認めた緊急的な措置だが、原発事故から1年を経過してもなお異常事態が続く。一方、休止中の施設の運営再開は用地確保など課題が多い。
■雇えない
三島町の特養「桐寿苑」は大熊、浪江両町の特養からお年寄り計6人を受け入れている。短期間滞在型のショートステイの受け入れ人数を減らし、特養分に割り振り対応している。地元には入所希望者が約100人いるが、順番待ちを続けてもらうしかない。
特養に入所するお年寄りは体が不自由なケースが多く、食事や入浴の介助などに細心の注意を払う必要がある。認知症などで常に目が離せない人もいる。定員を数人超過しただけでも、職員には重い負担がのしかかる。
入所者数増に応じて職員を増やせない事情がある。国が定員超過の特例を認める期間を示さないためだ。いつ避難者が退所するか分からない。1度、増やした職員を減らすのは容易ではない。
県中地方の特養では、定員超過に伴い職員を増やしたが、パート職員として採用した。関係者は「先行きが見えない中、正職員は雇えない」と明かした。
■部屋が足りない
施設は定員が超過すれば手狭になる。定員の80人に加え、大熊、双葉両町の施設から8人を受け入れる会津若松市の特養「会津みどりホーム」は、一部で4人用の部屋に5人入ってもらうほか、別目的の部屋を使って居室を確保している。
浅川町の特養「さぎそう」でも、リハビリ用の部屋をカーテンで仕切って個室をつくるなどの工夫を重ねる。小山田輝雄施設長(63)は「原発事故で休止している施設が1日も早く運営を再開できるよう、国、県はもっと支援すべき」と訴える。
一方、避難先の慣れない施設で生活するお年寄りの心の問題を心配する声も上がっている。会津みどりホームの梶内たけみ介護長(51)は「避難生活が長引き、不安も多いはず。今後も入所者に寄り添い、心のケアに取り組んでいきたい」と話している。
【背景】
厚生労働省は震災直後の昨年3月、都道府県に対し、特養などの施設で定員を上回って受け入れることについて、柔軟な対応を認める通知を出している。県の2月1日現在の調べでは、県内の特養で定員超過の45施設の地域別内訳は、県北10、県中13、県南3、会津11、南会津3、相双1、いわき4カ所。他に養護老人ホーム5施設で21人、認知症高齢者グループホーム8施設で13人、有料老人ホーム4施設で11人の定員超過となっている。定員超過が長期化していることについて厚労省は「望ましくない。解決すべき課題」との認識を示している。
(カテゴリー:3.11大震災・断面)