東日本大震災アーカイブ

亡き友へ復興誓う 葛尾で成人式 津波被災の仲間しのぶ17人が門出

成人式で吉田さんの遺影と共に記念写真に納まる葛尾村の新成人

 東京電力福島第一原発事故で全村避難している葛尾村の成人式が2日、避難先の三春町で行われ、東日本大震災の津波で犠牲となった吉田裕紀さん=当時(18)=の遺影が掲げられた。一緒に晴れの日を迎えようと、吉田さんの友人らが抱きかかえて式に臨んだ。「裕紀の分まで頑張る」。県内外から集った17人の新成人は、亡き友をしのびながら、古里の1日も早い復興を願った。
 吉田裕紀さんは平成23年3月11日の東日本大震災当日、浪江町請戸で津波に巻き込まれ、行方不明となった。
 「十数年も一緒に過ごした仲間だから。一緒に出席できてみんな喜んだよ」。吉田さんの遺影を抱えて記念撮影に臨んだ下枝宏通さん(20)は天国の親友への思いを口にした。
 幼なじみの2人は葛尾小、葛尾中を卒業し、小高工高に3年間、共に通った。下枝さんは自宅で震災に遭った。翌日、連絡を取ろうとしたが、携帯電話に何度かけてもつながらなかった。震災の10日前の1日に行われた卒業式が最後の別れとなった。
 下枝さんは郡山市で暮らす吉田さんの父裕一さん(43)と母浩美さん(41)に遺影と共に式に出席したい気持ちを伝えていた。2日朝に自宅を訪ねると、両親は「ありがとう。一緒に会場に連れて行って」と遺影を手渡してくれた。
 下枝さんは内定していた南相馬市の会社への就職を避難の影響で取りやめ、現在は三春町の仮設住宅から町内の会社に勤めている。「本当は写真じゃなくて本人と成人式に出たかったが、裕紀の分まで一生懸命生きる」と誓った。
 勤め先のある愛知県から駆け付けた福島輝さん(19)は23年9月に営まれた告別式で弔辞を読んでいる。「生きていれば、復興に力を入れていたはず。自分たちも頑張らないと」と前を向いた。
 葛尾中剣道部で女子の部長だった阿部真澄さん(20)は「周囲を引っ張り、気を配る存在だった」と、男子の部長を務めていた吉田さんをしのび目を潤ませた。
 下枝さんらは式の後、吉田さん方を訪れ線香を手向けた。浩美さんは「息子は、はかま姿で式に出るのを楽しみにしていた。仲間の晴れ姿を近くで見られて本人も喜んでいると思う」と優しい心遣いに感謝していた。

カテゴリー:福島第一原発事故