東日本大震災

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明るく近所付き合い 作った野菜知人に分ける

■相馬市磯部 熊倉紀子さん(67)

 紀子(としこ)さんは、夫の一巳(かつみ)さん(75)といつか水入らずで旅行するのを楽しみにしていた。「苦労を掛けた分、これから良い思いをさせてあげたかった」。一巳さんは「あの日」の瞬間を語り始めた。
 震災当日、紀子さんは一巳さんと、長男の一男さん(47)の長男で相馬東高3年だった雅人さん(20)=相馬消防署新地分署勤務=、磯部中1年だった長女の茱莉(あかり)さん(15)=相馬東高1年=の4人で自宅にいた。大きな揺れがあり、一巳さんが近くの海水浴場に行くと波が引いていくのが見えた。「津波が来る」。自宅に戻り、車で海から1キロほど離れた畑に4人で避難した。
 「ドカン」という大きな音が聞こえた。防波堤を越えた黒い波が約10メートルの高さまで上がるのが見えた。数分後には避難した畑の近くに迫った。さらに遠くに逃げようと一巳さんらは車に乗り込んだ。車から20メートルほど離れていた紀子さんは逃げ遅れた。一巳さんは「とにかく無我夢中だった。もう少し早く逃げようとしていれば、間に合ったかもしれない」と唇をかむ。
 震災から6日後、市内の安置所で紀子さんを確認した。一巳さんは悲しみよりも先に、見つかった喜びを感じた。「戻ってきてくれてありがとう」
 紀子さんは21歳で同じ相馬市内から嫁ぎ、一男一女を育てた。近所付き合いを大事にし、作った野菜を知人らに分けては喜ばれていた。
 紀子さんが見つかってから一巳さんは「亡くなった人と家族を少しでも早く再会させてあげたい」と思うようになった。平成23年11月まで市議を3期務め、大勢の地元住民を知っていた。安置所の身元不明者を見て知っている人がいると、家族を捜し連絡を取った。「妻に助けられた命を他の人のために使いたい」。今は、同じように津波被害に遭った住民の相談に乗ったり、講演会で被災経験を伝えたりしている。

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