東日本大震災アーカイブ

原告の請求棄却 女性死亡と避難生活因果関係認めず 福島地裁

 東日本大震災と東京電力福島第一原発事故で避難した後、体調を崩して死亡した南相馬市の女性=当時(90)=の長男(63)が市に震災関連死不認定処分の取り消しなどを求めた訴訟で、福島地裁の金沢秀樹裁判長は8日、原発事故に伴う避難生活と死亡の因果関係を認めず、原告の請求を棄却した。不認定取り消し訴訟の判決が出るのは2例目で、いずれも原告側の主張が退けられた。


 判決理由で金沢裁判長は女性が高齢な上、骨折で車椅子中心の生活だったことによる体力低下などが死因となった誤嚥(ごえん)性肺炎を招いたと指摘した。
 「避難生活の負担が心身の衰弱につながり誤嚥性肺炎のリスクを高めた」という原告の主張については、長距離の避難が体力面で負担をかけたとしたが「肺炎の発症につながった証拠はない」とし、原発事故との因果関係は認めなかった。
 女性は平成23年2月、左足を骨折し南相馬市の病院に入院した。翌月に起きた震災後は転院を繰り返し、24年8月に体調を崩して死亡した。長男は9月、災害弔慰金の支給を市に申請したが、市は25年2月に災害関連死の不認定を決定。その後、長男の異議申し立てを棄却した。
 遺族の請求のうち、市に震災関連死を認定するよう求めた訴えを却下した。

■審査過程の不透明さ問題 原告の男性
 原告の男性は仕事のため裁判を傍聴できず、男性の妻(63)が法廷で判決を聞いた。訴えが退けられ、妻は閉廷後に「おばあちゃん、ごめんね...」と涙を流した。
 義母の遺影に毎日、その日の出来事を語り掛けているという。「原発事故さえなかったら、義母はもっと長生きしたはず。心の整理ができない」と語った。
 原告の男性は仕事先で福島民報社などの取材に応じ、「判決は不服。関連死認定の審査の過程が不透明なのが一番の問題だ」と述べた。

■被災者の心痛重く受け止める 南相馬市長
 福島地裁の判決で南相馬市の主張が認められたことについて、桜井勝延市長は「とりたててコメントすることはない」とした上で、「今後も被災者の心痛を重く受け止めながら、引き続き生活再建の支援と市の復興に全力で取り組む」と述べた。

■原告女性死亡の裁判は終了判決 市への取り消し訴訟
 震災と原発事故で避難した後、体調を崩し死亡した南相馬市の男性=当時(50)=の母親が震災関連死不認定処分取り消しなどを市に求めた訴訟の判決も8日、福島地裁であった。金沢秀樹裁判長は原告の母親が死亡したため、裁判は終了したとの判決を言い渡した。
 母親は提訴後の25年11月に死亡した。弟が訴訟承継人になると同地裁に申し立てていた。
 原告側代理人は判決を受け、「遺族の悲しみに対する弔意を示すという災害弔慰金制度の趣旨が行き届かない事態を招きかねない。控訴する方向で原告と協議したい」とコメントを発表した。


※震災関連死の認定 震災後の避難生活などによる体調悪化、過労などで亡くなったとする事例を医師や弁護士ら有識者で構成する市町村の審査会が認定する。審査会を設けていない市町村もある。家計を支えていた生計維持者が認定された場合は災害弔慰金500万円、それ以外は250万円が遺族に支払われる。


■歳月経過で立証困難に 審査制度に統一基準必要
 南相馬市に震災関連死不認定処分の取り消しを求める訴えを退けた今回の福島地裁判決は、原発事故に伴う避難生活と死亡の因果関係を明らかにする難しさをあらためて浮き彫りにした。今後も震災関連死の認定申請は続くとみられるが、歳月の経過とともに因果関係の立証がより困難になる恐れがある。
 原発事故から11日で丸5年となる。当時の記憶があいまいになり、申請に必要な資料をそろえることができなくなるケースも増えると想定される。
 一方、現在の審査制度に不満を募らせる被災者も多い。関連死の認定判断は市町村が行っているが、認定率は33%から100%までばらつきがある。法曹関係者からは、統一基準がないままでは判定で不認定となった被災者は不公平感を抱えてしまうとする指摘が出ている。関連死訴訟の代理人を務める新開文雄弁護士(64)=福島市=は「各市町村の判断で認定範囲が変わるのは問題だ」と強調する。
 いわき明星大教養学部の高木竜輔准教授(39)=地域社会学=は「原発事故という特殊な状況下では、遺族の心情も踏まえて判断すべき」と訴える。今回の判決を機に、被災者に寄り添った関連死認定の在り方をあらためて考える必要がありそうだ。(本社社会部・村田 利文)

カテゴリー:福島第一原発事故