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心優しい漁師の夫 日々を大切に生きた母

■いわき市平薄磯 鈴木 好一さん(63) シズヱさん(90)

 いわき市は東日本大震災後初めて市内の薄磯海水浴場を今夏開設する方針を2月に発表した。ただ、同市平薄磯の鈴木雪子さん(63)は震災後1度も薄磯の海を訪れていない。夫の好一(よしかず)さん=当時(63)=、好一さんの母のシズヱさん=当時(90)=を失った海を眺める気になれない。「孫ができたら大好きな海に連れて行って遊ばせたい」。雪子さんはかなえられなかった好一さんの夢を思い出し、目を潤ませた。
 好一さんは市内平薄磯に生まれた。若い頃から漁船に乗り、サケやマス、サンマなどを取っていた。休漁期はカレイやドンコなどを加工した。一生懸命に働き、長女、長男、次男の子ども3人を育てた。
 口数は少ない好一さんだったが、シズヱさんが体調を崩すと、柔らかい食材を使い料理を作る優しさがあった。料理が得意で、煮魚やホッキ飯、ビーフシチューなどを雪子さんにも振る舞った。
 シズヱさんは大きな病気をしたが、明るい性格だった。近所の知人らとお茶飲み話をするのを楽しみにしながら、一日一日を大切に生きていた。
 長女は自分の結婚式で好一さんの背中に乗って海で遊んだ思い出などを語った。酒が大好きだった好一さん。<お酒を飲み過ぎないように>。父の体を思いやった手紙は震災の津波で流された。
 震災後、雪子さんは自宅周辺で好一さんを必死で探した。見つかったのは好一さんの結婚指輪。「少しでも夫を近くに感じたい」。雪子さんは指輪を着けて捜し続けた。好一さんとシズヱさんの遺体が見つかったのは震災から約2週間後だった。
 好一さんの孫が初めて生まれたのは震災から約2カ月後の平成23年5月だった。「(夫は)孫の顔を見ることもできなかった。けんかもしたが、何10年も一緒に暮らした大切な人だった。もう1度だけでも会いたい」。雪子さんは薄磯地区に建てられた災害公営住宅の一室でつぶやく。
 震災から6年となる。薄磯地区は、つち音高く復旧工事が進む。11日には慰霊碑も完成する。除幕式には雪子さんも参加する予定だ。ただ、雪子さんの気持ちは整理がつかないままだ。

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