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生きた証し伝える 息子思い語り部に

■寺島浩文さん(55) ~新地町~

 新地町議寺島浩文さん(55)は、大切にしまっていた財布を久々に手にとった。革はひび割れ、乾いた土がこびり付いている。JR新地-仙台駅間の定期券、学生証、しわくちゃの紙幣...。全て、あの日のままだ。東日本大震災の津波で亡くなった長男佳祐さん=当時(19)、東北工業大1年=が愛用していた。
 自動車学校の送迎バスの中で津波にのまれた息子の死から間もなく7年。「佳祐、お前の死を絶対に無駄にはしない」。今年、未曽有の大災害を後世に伝える語り部として新たな一歩を踏み出す。生きた証しにそっと手を添え、誓いを立てた。
   ◇   ◇
 佳祐さんが通っていた宮城県山元町の常磐山元自動車学校では、生徒25人が尊い命を落とした。
 救えた命だったのではないか-。
 遺族は民事訴訟で学校側の責任を追及した。浩文さんは遺族会代表として学校側の安全管理の不備を訴えた。
 控訴審まで争った裁判は2016(平成28)年5月に和解に至った。和解には学校幹部の謝罪が盛り込まれた。遺族側は1つの区切りとして和解を受け入れた。苦渋の決断だった。
 浩文さんにとって、和解文書に記された一文が転機になった。
 〈防災および避難マニュアルが作成されていなかったこと、教習生に対する適切な避難指示が行われなかったこと、これが何ら落ち度もない教習生の死亡という結果の一因となった〉
 裁判で訴え続けた学校側の管理体制の不備も明確に認定された。蛍光ペンと赤ペンで一文に線を引き、何度も指でなぞった。あの日以来、止まっていた時の流れが再び動きだすような気がした。
 成人まで、あと半年だった。一緒に酒を酌み交わせる日がやって来ることを疑わなかった。震災はささやかな夢さえも奪い去った。悔しさ、無念さは生涯消えない。だが、希望に満ちていた息子の分まで精いっぱい生きると腹を決めた。
 「二度と同じ過ちを繰り返してはいけない」。再三、裁判で唱えた当事者として、震災を風化させたくない。思いが背中を強く押した。
   ◇   ◇
 遺族の有志で語り部のグループをつくる。最愛の人を失った経験から、命の大切さや命を預かる責任の重さ、万一への備えの重要性など裁判で得た教訓を踏まえて伝えていくつもりだ。
 11日は新地町の追悼式に臨む。佳祐さんに告げようと思っている。
 「佳祐の生きた証し、しっかりと伝えていくよ」と。

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