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【官製風評 処理水海洋放出】立て直しの具体策なし 経営と現場の分離一因 東電の不祥事謝罪

2021.04.11 16:15

 六日に内堀雅雄知事と面会し一連の不祥事を謝罪した東京電力の小早川智明社長は、報道陣の取材に対し「地域や社会の皆さまの不信につながったと深く反省している」「経営と現場の距離が離れているのは一つの問題点」とし、第三者による検証を受け改革に取り組む考えを強調。「表層的な対策でなく抜本的な対策を打つ。廃炉を進める事業者として信頼回復できるように立て直す」としたものの、具体策は示さなかった。

 梶山弘志経済産業相は九日の記者会見で、処理水を処分する場合には安全性に関する客観性と透明性を持った情報発信が不可欠とした上で「厳しい管理を徹底して廃炉作業を着実に進めるよう指導する。東電が原発事故の責任を果たすよう、国が前面に出る」と強調した。だが、東電をどのように指導し、どう国が前面に出るのかは不透明なままだ。

 原子力政策を所管する経済産業省資源エネルギー庁などは、これまで処理水の処分に向けて「トリチウムの出す放射線は紙一枚で遮られるほど弱い」「国内外の原発でトリチウムを含んだ水を海洋放出している」などと科学的な安全性の発信に腐心してきた。

 東電は処理水を海洋放出する場合には、原子炉等規制法で定めた環境放出基準値の四十分の一未満(トリチウム濃度一リットル当たり一五〇〇ベクレル未満)に海水で薄めて流す処分手順案を示している。地下水を原子炉建屋に近づけない対策「地下水バイパス」「サブドレン」でくみ上げた地下水を海に放出している際の基準と同様に設定することで、住民の理解を得たい狙いがあるが、エネ庁担当者は「国民に広く浸透しているとは言えない」と不十分さを認める。

 政府には、国民理解の醸成に向け、トリチウムについての情報発信に加え、東電の体質改善、原子力事業の健全性確保という重い課題がのしかかる。


■速やかな情報公開不可欠 Q&A東電の不祥事

 東京電力福島第一原発で増え続ける放射性物質トリチウムを含んだ処理水の海洋放出を実施することになる東電の不祥事が相次いでいます。安全性や信頼性を懸念する声が上がっています。


 Q 東電はどんな不祥事を起こしたの?

 A 福島第一原発3号機で故障した地震計を放置し、公表していませんでした。本県沖を震源として最大震度6強を観測した二月十三日の地震では処理水が入ったタンクのずれの公表が遅れました。約四千基のコンテナを内容物不明のまま放置していた事実も明らかになりました。柏崎刈羽原発(新潟県)ではテロ目的などの侵入を検知する設備が故障し、代替措置も不十分でした。原子力規制委員会は事実上の運転禁止命令を出す見通しです。

 Q 海洋放出が決まったら東電は何をするの?

 A 政府による処分方針の決定を受け、東電は海洋放出に必要な設備の設計や規制手続きを行います。原子力規制委員会から安全性の審査と認可を受け、必要な設備を工事し、放出を開始します。政府の方針決定から処分開始までには二年程度かかるとされています。廃炉完了までに放出を終えるとしていますが、今後の汚染水の発生量や廃炉の完了時期は明確になっていません。処分に伴う風評の対策や賠償への姿勢も問われます。

 Q 東電はどうして信用を失ったの?

 A 福島第一原発事故により、大量の放射性物質が飛び散り、多くの人が避難に伴い住む家や仕事を失いました。県内の魚や農作物も売れにくくなり、販売価格も下がりました。今年に入り、柏崎刈羽原発での核物質防護不備や福島第一原発での地震計の放置など問題が相次いでいます。東電は規則を破っていたばかりではなく、公表する必要がないと考えて、県民が不安に思うような情報を結果として隠していました。

 Q 東電は今後どうすればいいの?

 A 東電の小早川智明社長は一連の不祥事について「本社と現場、管理層と作業員の距離が離れている」ことが原因と考えています。東電と県民の感覚のズレも問題です。原発事故による影響を受けている人たちの気持ちを理解した上で、ありのままの情報を速やかに公表する姿勢が求められています。