白河市大信地区の奥地にそびえる権太倉山の南麓に「聖ケ岩ふるさとの森キャンプ場」がある。岩と清流に抱かれた緑あふれる場所で、タレントのなすびさん(福島市出身)と初夏の野営や料理を楽しんだ
新緑のブナの葉がそよ風に揺れ、晴れ渡った青空が顔をのぞかせる。川のせせらぎが耳に心地よく響く。
標高五二〇メートルに位置する聖ケ岩ふるさとの森キャンプ場。頭上には聖ケ岩が眼下を見守るようにたたずむ。少し離れて北東側に大日岩、南東側には不動岩もある。清らかな隈戸川が場内を流れる。樹林と巨岩、渓流の織りなす美景が来場者を非日常へといざなう。
場内はバーベキューに対応したメインエリアやテント泊が可能なブッシュエリア、バンガローを備え、川の瀬ではオートキャンプを満喫できる。清流を生かした遊水池もある。
なすびさんが野営地に選んだのは、ブナに囲まれ、ミズバショウの小さな池に隣接するエリア。涼しい山の空気が辺りを満たす。ビジターセンター付近から隈戸川に下りると、枡滝(ますだき)が現れる。小さな滝だが、渓流の魅力に触れられる。「冷たいけれど、気持ちいい」となすびさん。流れに手を入れて笑った。
場内外を巡る三本の遊歩道がある。一つは片道五分ほどで大信不動滝へ。幅三十メートル、高さ五メートルの岩の肌を清流が流れ落ちる。場内を約十五分で一周する遊歩道を歩けば、鳥のさえずりと森林浴に癒やされる。もう一つの道は片道約十五分で不動岩展望台に通じる。
聖ケ岩はロッククライミングに最適で、県内外からクライマーが足を運ぶ。ビジターセンター内には人工壁面があり、ロープを付けずに壁をよじ登るボルダリングを楽しめる。なすびさんが挑戦し、高さ約五メートルの壁をリズムよく登った。「難易度の設定通り楽しむもよし、自由に登るもよし。初心者でも気軽に遊べる」と満足した様子だった。
聖ケ岩ふるさとの森を守る会会長の金沢鶴一さん(65)は「新緑や青葉、紅葉がきれいで、登山口とキャンプ場が近いのも魅力。(白河市)大信地区の良さを満喫してほしい」と話した。
■キャンプ何から始めればいい?
「キャンプは何から始めればよいの?」。エベレスト登頂経験のある、なすびさんも、実はキャンプ初心者。キャンプ場スタッフの藤田朗さん(47)のアドバイスを受けながら設営や料理に挑戦した。
はじめに、たき火台をセットした。たき火台にはまず、着火しやすいように木くずを置く。麻ひもでも代用は可能だ。「まきは油分を含むスギやマツなどの針葉樹をくべて、火が付いたら、ゆっくりと燃える広葉樹を入れて」と藤田さん。なすびさんがまき割りと火おこしを体験した。
料理のメインは「白河高原清流豚のローストポーク」。ダッチオーブンに外側を焼き付けたブロック肉や野菜、ローリエを入れる。火加減を見ながら三十分ほどで完成した。野菜たっぷりのバゲットピザも作った。
夕暮れ時。ランタンをともし、料理を口に運ぶ、なすびさん。「ローストポークは少しぱさつきもあるが、うま味が凝縮されている。試行錯誤もアウトドア料理の醍醐味(だいごみ)ですね」。自然の中での“キャンプめし”を満喫していた。
■なすびさんインタビュー「自然との共生学んだ」
企画「自然と生きる」に随時参加し、県内の自然やキャンプ場の魅力を体験するタレントのなすびさん(福島市出身)。登山について「自然との共生を学んだ。その大切さを忘れないために登り続けている」と語る。
ー二〇一六(平成二十八)年五月、四度目の挑戦で世界最高峰エベレストの登頂に成功した。
「元々登山は苦手だったが、復興へと歩む県民の皆さんを勇気づけたい思いで、あえて難しいことに挑戦した」
ー三度の撤退を余儀なくされた。雪崩に遭い、命の危険もあった。
「自然の前で人間がいかに無力かを思い知った。自然をコントロールすることはできず、欲だけでは登れない。自然に受け入れてもらうという心境に至り登頂できた」
ー今も県内外で登山を続けている。
「登山を通して自然と向き合うことや共生の大切さを学んだ。そのことを忘れないために、そして、より多くの人に広まってほしいとの思いを込めて続けている」
ー山登りの魅力は。
「富士登山で同行した登山家の田部井淳子さん(故人、三春町出身)は登山を通して『一歩一歩、目標に向かって歩むことが大切ということを若い世代に伝えたかった』と話していた。諦めず、挑戦する気持ちを持てるのが山登りだと思う」