福島県桑折町を走る四号国道の西側に、かつて半田銀山として日本三大鉱山に数えられた半田山(八六三メートル)がある。山の東側が壁のように切り立ち、独特の山容を見せる。
半田山自然公園キャンプ場からの登山ルートもあるが、今回は山頂に最も近い登山口から登り始める。急な坂道が続く。息を切らして二十分ほど歩くと、登山道を代表する絶景ポイントを迎える。
木々の間から、眼下に農業用水をたたえる半田沼が見える。青緑色に輝く沼の輪郭がハート形に似ていることから「ハートレイク」と呼ばれ、登山客を魅了している。
明治後期、山では災害が相次いだ。一九〇一(明治三十四)年から一九〇三年にかけて大規模な地滑りが発生し、山の東側半分が崩落。旧半田沼が消滅し、現在の新しい沼ができた。一九一〇年には豪雨で沼が決壊した。
当時の旧半田村村議の高田菊太郎が県知事に復旧支援を直談判した。県の補助が決まり、官民による治山事業が始まる。「緑を取り戻そう」を合言葉に、住民は自らの生活再建の傍ら植栽に従事。山の復興に尽くした。大正、昭和まで続いた植樹の数は約百三十万本に上る。
災害で地肌がむき出しとなり、「はげっぺ半田山、登ればつるつる」と歌われた山も、今では豊かな緑に包まれる。登り始めて約三十分。なだらかな尾根を進み、新緑のトンネルを抜けると、山頂にたどり着いた。水田や畑の広がる信達平野、伊達市の霊山(八二五メートル)が望める。
遊歩道やキャンプ場が次々と整備され、一九八九年に一帯は半田山自然公園となった。郷土の歴史に詳しい元小学校長の猪俣好巳(よしみ)さん(92)は「山は災害復興のモデル。先人の苦労があって今の姿がある。身近な里山としてこれからも見守りたい」と話す。
文 鈴木 信弘
写真 猪俣 広視
■ハートレイクが魅力
登山道から見える「ハートレイク」の眺めが大きな魅力です。登りやすく、気軽に里山登山を楽しめます。