JR只見駅の北西に、戦国時代に山城・水久保城が築かれた要害山(七〇五メートル)がある。雪で削られた爪痕のような雪食地形、豪雪地帯特有の植生など只見町の自然が凝縮され、登山客を魅了する。
只見駅から歩き始めた。瀧神社の鳥居をくぐり、宮ノ沢登山口を入ると急傾斜の登りが続く。所々に張られたロープを頼りに、息を切らしながら歩みを進めれば、「一服尾根」に到達する。
視界が開け、只見の町並みや「会津のマッターホルン」と称される蒲生岳、田子倉ダムが目に入る。吹き抜ける風で火照った体を癒やしながら、しばらく眺望を楽しんだ。
登山を再開すると、またしても急な斜面が待ち受ける。周辺に広がるブナの森を見ながら、一歩ずつ進む。「ブナ太郎」と名付けられた大木を通り過ぎ、間もなくテレビ塔が備わる山頂に到着した。生い茂る木々の一部が開け、町並みが見える。
山名の「要害」は、地形が険しく敵の攻撃を防ぐ場所という意味だ。水久保城は、この地を治めた山内家の出城だったと伝えられる。伊達政宗軍との攻防でも落ちなかった名城とされ、現在は山頂付近に曲輪(くるわ)の跡が残る。
これほど急峻(きゅうしゅん)では簡単には攻め入れまいー。頂に立ち、いにしえの山城に思いを寄せた。
山頂を満喫し、南側に下る。浅草岳を望み、ヒメサユリをめでながら麓まで一気に歩んだ。
終点となった南尾根登山口の近くには三石神社がある。巨石の下に社殿が設けられており、岩の穴に五円玉を結んだこよりを通すと縁が結ばれるという言い伝えがある。
登り始めから下山までに要した時間は二時間半ほど。車で約三十分の距離にある「森林(もり)の分校ふざわ」で自然体験メニューを楽しむ余裕もある。
ふるさと只見案内人協会の鈴木サナエさん(73)は「四季折々の花々を楽しみ、歴史に思いをはせることができる。多くの人に魅力を伝えたい」と話す。
文 鈴木 仁
写真 猪俣広視
■町並み広がる中腹
中腹からの眺望が素晴らしく、只見の町並みや蒲生岳、田子倉ダムなどがきれいに見えます。ブナやヒメサユリなど見どころも多いです。標高が低く初心者向けかと思っていたが、急な登りが続きます。