5区は小選挙区比例代表並立制の導入以来、初めての一騎打ちとなり、共産党の新人熊谷智(42)、自民党の前職吉野正芳(73)による2度目の対決が繰り広げられている。熊谷陣営は県内で共産初の野党統一候補となったものの野党間の選挙協力に不安材料を抱え、吉野陣営は9月に行われたいわき市長選での保守分裂の影響を懸念する。それぞれに「しこり」を抱えながらの論戦となっている。
■吉野氏 組織引き締めに全力
熊谷は22日、東京電力福島第一原発事故に伴う避難区域が残る双葉郡を中心に回った。福島第一原発の処理水を海洋放出する政府方針を批判し、「あらゆる原発の再稼働を中止させたい」と訴えた。
前職の吉野に勝利するため、得票目標を「8万票以上」と設定した。2017(平成29)年の前回衆院選で熊谷が得た1万6154票の約5倍に相当する。熊谷を推薦した社民党県連をはじめ野党勢力の結集を目指している。
いわき市平に設けた選挙事務所では、党関係者らが出入りし、有権者に電話で支持を呼び掛けている。選対副本部長の吉田英策は「野党共闘により、これまでにない可能性を感じている。『反自民』の声を結集させたい」と意気込む。
熊谷への候補者一本化が実現したが、「新人の擁立を取り下げた立憲民主党が距離を置いた」(選対幹部)。熊谷の選挙事務所などに立民関係者はほとんど出入りしていないという。
立民最大の支援団体で「反自民、非共産」の連合福島は、5区のみの対応として自主投票を決めた。連合福島いわき地区連合会に所属する組合員は約1万2000人で、家族を含めれば約3万票に上る。だが地区役員の一人は「投票先を決められず、白票が増える可能性がある」とみる。
熊谷陣営は無党派層や若い世代への浸透が鍵を握るとして、短文投稿サイト「ツイッター」や交流サイト「フェイスブック」を活用し、政権批判票を取り込むのに躍起だ。
■熊谷氏 無党派や若年層狙う
八選を目指す吉野は22日、いわき市小名浜などを遊説し、漁業関係者らに支持を呼び掛けた。処理水の海洋放出方針への懸念を念頭に、安全確認や風評抑制について「政府が責任を持って取り組むよう強く促す」と約束した。反対の声が強い浜の選挙区の中で「自民離れ」(選対幹部)を警戒している。
同市平の選挙事務所の壁には閣僚経験者らから届けられた「ため書き」が並ぶ。復興相を務めた吉野は復興予算の確保、避難指示解除などに一定の道筋を付けてきたと自負している。選対本部幹事長の鈴木智は「復興を着実に進めてきた。自公連立政権の継続を有権者に選択してもらえるよう訴える」と話す。
得票目標は前回実績に約1万4000票を上乗せした10万票。地盤のいわき市や双葉郡の後援会、自民の友好団体を中心に、入念に組織票を固めている。
保守分裂となった9月のいわき市長選で党いわき総支部は吉野の衆院選への影響を回避しようと特定の立候補者を推薦せず、吉野に近い立候補者を含む自民系の3人全員を「支持」とした。ただ、この対応でもわだかまりは残った。選対幹部も認める。
さらに、かつて5区で党公認候補の座を争った故坂本剛二元衆院議員の流れをくむ支持者を中心に、吉野支援の動きが鈍化していると見る向きもある。当選7回の坂本を支持した一人は「吉野を積極的に応援したくない人もいるのでは」と推察する。陣営は保守層の引き締めに全力を挙げる。(文中敬称略)
■5区
熊谷 智 42 共産 新
吉野 正芳 73 自民 前⑦ [公]
(届け出順、敬称略。丸数字は当選回数。四角枠は政党本部の推薦)
▽いわき市、双葉郡
▽有権者=32万934人(18日現在)
----------------------
2017年衆院選本県5区の結果
当 86,461 吉野 正芳 69 自民
◎ 51,478 吉田 泉 68 希望
16,154 熊谷 智 37 共産
7,186 遠藤 陽子 67 社民
(敬称略。◎は法定得票数獲得者)