花塚山(918メートル)には伝説がある。昔、京の都にいた姫君と若い公家が恋仲になる。公家は上司の命令により遠い陸奥へと旅立った。姫君は公家が恋しくなり、鹿(しか)を供に連れて陸奥に向かう。公家がいるという山まで来たが、女人禁制で入れない。そこで姫が来ていることを鹿に伝えてもらおうと山に放った。いつしか放鹿山と呼ばれるようになり、花塚山になったという。
登山口には伝説に思いをはせることができる放鹿神社がある。ここで手を合わせ、登山の無事を祈った。しばらくは急な登り道が続く。木の実を食べに来ているのだろうか。ヤマガラの鳴き声を聞きながら歩いた。
烏帽子(えぼし)岩や行者戻し岩、仙人岩など奇岩怪石が続き、登山者を飽きさせない。行者戻し岩には鎖が付いていてつかまりながら登る。迂回(うかい)路もあるので岩登りをしなくても頂上を目指すことができる。山頂手前にある岩からは2016(平成28年)までに富士山が撮影され、富士山が見える北限の山となった。
山頂に到着後、下山する。途中にある護摩壇岩からは川俣町の街並みが一望できる。遠くに安達太良山や吾妻連峰が見える。さらに下山を続けると、まるでタワーのような形の堅石が見えてくる。巨岩が5つほど積み重なっているように見えるその姿は圧巻だ。
花塚山の会副会長の佐藤ハツ子さん(73)らが案内してくれた。元会長で川俣町長の藤原一二さん(75)も同行。藤原さんは「春はイワウチワなどの花、秋は紅葉と四季折々の美しい姿を見せてくれる。川俣にとって母なる山だ」と古里のシンボルを見上げた。
文・横山雄介
写真・佐藤裕之
(次回は10月31日掲載予定)
■なすびの一言
富士山が見える北限の山として知られ、巨岩などの名所も随所にあると聞いています。まだ登った経験がありませんが、ぜひ登ってみたいと思います。