衆院選は自民、公明の与党が二百六十一議席以上を獲得する見通しとなった。岸田文雄首相が勝敗ラインとしていた「与党で過半数」を確保し、引き続き政権運営を託された。経済対策や新型コロナウイルス対策、本県の復興加速など公約に掲げた施策の具体化を急ぎ、速やかに実行に移さなければならない。
何を重視して投票するかを有権者に尋ねた共同通信社の全国電話世論調査では、経済政策が36・7%と最も多く、新型コロナ対策16・1%、年金・医療・介護15・7%、子育て・少子化対策8・6%と続いた。コロナ禍で傷んだ経済の立て直しは国民の最大の関心事といえる。
経済対策について岸田首相は「数十兆円規模の総合的かつ大胆な経済対策を最優先で届ける」と明言した。二〇二一(令和三)年度補正予算を年内に編成させる段取りを描いているようだが、本来であれば、具体的な中身を示した上で、選挙戦で国民の信を問うのが筋で、後先になった感は否めない。
看板政策に掲げる「成長と分配の好循環」にしても同様だ。賃上げに積極的な企業に税制支援を行い、看護、介護、保育現場の収入も引き上げるとしたが、これまでの訴えでは、実現への道筋や規模感が全く見えてこなかった。裏付けとなる財源も含めて、早急に詳細を示す必要がある。
岸田首相は選挙戦に先立ち、東京電力福島第一原発を視察し、放射性物質トリチウムを含んだ処理水について「多くのタンクが並んでいる姿を見て先送りできない重要な課題だと痛感した」と述べた。だからといって、風評被害を懸念する漁業者や多くの県民の反対を押し切って海洋放出に踏み切っていいわけはない。車座対話などを通して被災地の声を聴く姿勢は大事だが、それをいかに政策に反映し、実現させるかが問われる。
原発事故に伴う帰還困難区域のうち特定復興再生拠点区域(復興拠点)から外れた地域については、二〇二〇年代に希望者の帰還を目指す政府方針に基づき、帰還に必要な箇所の除染、地域コミュニティーの再生に取り組む考えを示した。
ただ、除染廃棄物の県外最終処分に向けた国民理解の醸成にせよ、国際教育研究拠点の整備にせよ、一日も早い復興を目指す被災地から見ればスピード感が乏しいと言わざるを得ない。自公政権が継続されるとはいえ、内閣が改まったからには、これまでの復興施策を検証し、より加速させるための具体策を講じるべきだ。(紺野 正人)