東京電力福島第一原発事故に伴う風評の払拭[ふっしょく]に向け、経済産業省と復興庁は東京都で「復興へのあゆみシンポジウム」を開いた。大消費地である首都圏で開催するのは初めてだ。原発事故から十年が経過し、遅きに失した感は否めないが、こうした取り組みは県外でこそ幅広い層を対象に推進すべきだ。一過性の催しで終わらせてはならない。
シンポジウムではパネル討論が行われ、飲食業関係者や地産地消に取り組む団体の代表らが本県の農産物・水産物の魅力や復興支援の取り組みなどをテーマに意見を交わした。「実際に滞在した人が『福島が好き』と大勢に伝える必要がある」「大勢いる福島を応援する人を結びつける場もつくりたい」…。全国との価格差や消費者の買い控えなど今なお風評が根強く残る中、それぞれの立場から現状打開に向けた提案がなされたことは意義深い。
県オリジナル高級米「福、笑い」や福島牛のローストビーフ、メヒカリの唐揚げ、会津身不知[みしらず]柿の試食も行われ、会場の飲食業関係者ら約五十人やオンラインで参加した約七百人に品質の高さをアピールした。新型コロナウイルス感染防止対策で会場参加が限られたのは残念だが、その魅力は参加者に少なからず伝わったはずだ。
ただ、シンポジウムを一度開いただけで、風評が拭い去られるというものではない。地道な積み重ねが何より重要だということを県民が一番知っている。時間の経過とともに本県への関心が薄れ、原発事故直後の負のイメージだけが残る恐れがある中、首都圏のみならず、全国各地でこうした機会を設けることで、より多くの人に福島の現状を伝え、理解を深めてもらう必要がある。
特に次代を担う若い世代に対する理解の醸成は欠かせない。復興庁は首都圏の高校で本県の復興や廃炉の現状などを伝える出前授業を始めた。同庁の担当者が学校に出向き、復興が進む福島県の姿や生産者の努力などを映像や資料を通して知ってもらう取り組みだ。第一回の授業は東京都文京区の筑波大付属高で行われ、参加した生徒からは「廃炉について理解が深まった」「風評について考えるきっかけになった」などの感想が聞かれた。
今年度中に数校で実施する予定だが、授業を受けた生徒を対象に、実際に本県を訪れてもらう機会を設けてはどうか。より理解が深まるだろうし、福島の応援団を育むことは風評払拭の大きな力になるだろう。(紺野正人)