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夜明け前が一番暗い(12月19日)

2021.12.19 09:17

 この二年間、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は人類の生存を脅かし、政治、経済、社会、私たちの働き方や日常生活まで大きく変えた。さらに、環境問題が全世界の共通の課題となり、持続可能性の高い社会やライフスタイルが求められている。世界はどう変わるのか。

 百年前のスペイン風邪によるパンデミックの際、第一次世界大戦の敗戦国ドイツへの多額な賠償要求がきっかけとなってナチスドイツが台頭し、第二次世界大戦につながった。パンデミックの後は歴史的に政治が短期短絡的結論になる。イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏が警告したように全体主義的な体制が台頭する危険性がある。通常、民主主義は平時には崩壊しない。崩壊するのは決まって緊急事態の時である。私たちは、わが国のみならず、全世界の政策を注視していかなければならない。

 中国・武漢在住の文学者の著書『武漢日記』(方方著、河出書房新社、二〇二〇)には武漢が二〇二〇年一月に都市封鎖されてから六十日後に解放されるまでのことが記されている。著者は政府の攻撃を受けながら日記をブログにアップした。その後、日記は本となって多くの言語に翻訳された。厳しい監視下におかれた都市封鎖。高層アパートの上層階の住人は、出入り口から毎日運び出されていく死者たちを窓から見送っていた。個人別の棺[ひつぎ]が、遺体搬送用の袋になり、やがてその袋に何人もが入れられて運び出されるのを見ていたそうだ。

 武漢の住民は他の地方からの誹[ひ]謗[ぼう]中傷、冷遇にもあっていた。この苦しみに耐えられたのは、やはり、家族や多くの友人からの温かい励ましだった。メールなどには「私たちはいつもあなたと、ともにいる」とのメッセージが書かれていた。「ともにいる」ことが人間にとって、どれほど大切で必要なことかを教えてくれる。

 クリスマスは二十四節気の冬至に近い。二十二日に冬至を迎えるこの国の闇は深い。出口の見えない状況に怯[おび]え、人々の苛[いら]立[だ]った心理状態から起きる暴力の連鎖が、連日、事件として報道されている。孤立し、孤独な私たちは、他者に対して非寛容になり、ときとして攻撃的、暴力的になる。

 クリスマスに社会に発せられるメッセージは「闇に光を」である。一年で、最も暗くなる大地の闇と、私たちの心の奥底の闇に光が灯[とも]される。「闇」は、私たちの弱さや悲しみ、心の傷や孤独感である。「闇に光を」とは、その私たちの弱さや悲しみに、誰かが「ともにいる」ことである。

 「夜明け前が一番暗い」。これはイギリスの諺[ことわざ]だ。困難に直面した際、そこからどんなに抜け出そうとしても状況が悪くなっていくことがある。これ以上ないといえるほど悪い状況になると、人はあきらめてしまいがちだが、光はすぐそばまで届いていることも多い。「夜明け前が一番暗い」。この名言には「明けない夜はない」という意味も含まれている。(西内みなみ 桜の聖母短期大学学長)