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探究・協働・対話的学習の基本(8月31日)

2025.08.31 09:12

 今日的教育改革の特徴の一つにアクティブ・ラーニング(実践的・協働的学習)への接近がある。それは学校教育においても顕著であり、平成10年に小・中学校では「総合的な学習の時間」として提言され、平成14年から実施され、高校では令和4年から「総合的な探究の時間」として展開されている。それは、「国際化や情報化をはじめ社会の変化に主体的に対応できる資質や能力を育成するために教科等の枠を超えた横断的・総合的な学習」の必要性を前提としている。その上で、「実社会や実生活と自己との関わりから問いを見いだし、自分で課題を立て、情報を集め、整理・分析して、まとめ・表現することができるようにする」と言った探究の過程が重視される。

 ふりかえれば、学習者(生徒)が、その生活経験に裏打ちさせながら自己と社会との関わり方を見つめ、自らを社会形成の主体者として確立させていく上で何が課題となるのかを把握し、その解決に取り組むためには、日常生活の中に埋没しがちな個別分断化された自己を解放し、広く社会に出て、同様の課題を持つ他者あるいは異なる課題を持つ多様な他者と出会い、その〈共通性〉と〈差異〉から学ぶ実践的・協働的な学習、アクティブ・ラーニングが不可欠とされている。こうした「主体的で対話的な深い学び」こそが、情報化やグローバル化といった加速度的に進展する社会的な変化・予測困難な現代社会を切り開き未来を創造する力になると位置づけられている。

 現代的教育改革のキーワードとなる「対話」を中心概念とする教育学の展開はパウロ・フレイレ(1921―1997年)によるところが大きい。彼はブラジルで「民衆文化運動」の一環として独自の識字教育を展開し、『被抑圧者の教育学』(1968年)、『伝達か対話か―関係変革の教育学』(1982年)等を著し、頭脳に知識を貯[た]め使用しようとする知識偏重的な教育を「銀行型教育」として批判し、「課題提起型教育」を提唱した。

 フレイレ教育学の基本は「意識化」にあるが、それは、教育は自分たちが置かれている状況を批判的に捉え、自らの主体性を抑圧する構造を認識し変革し、社会形成の主体者として自らを解放し「人間化」する行為であるとしている。そのためには、「知識」(常識)に潜む価値観が与える民衆のアイデンティティへの抑圧構造に着目しそれが生活課題としてどのように出現しているのかを、仲間と共に苦痛や痛み・喜びを交流させながら対話的に把握し、その課題解決の方途・智慧[ちえ]を協働的に紡ぎ出し実践することが不可欠とされた。

 この様に「対話」の概念を捉えると、「探究」の基本は、単なる「調べ学習」とは次元が異なり、自己と社会との関わり方を批判的に把握し、対話と協働により、そこに発見される課題の解決に向けて試行錯誤を重ね深く実践し続ける主体者の形成にある。「探究」学習の支援もまた〈教え・教えられる〉関係による知識の伝達から解放され、対話と協働関係の創造に向けた関係構造の変革にその基本はある。

(中田スウラ 放送大学福島学習センター所長)