営農再開に取り組む双葉地方で地元産の食材を生かした商品開発の動きが活発になってきた。携わる団体や個人のネットワークが生まれ、地域の活力が増しつつある。双葉地方ならではの付加価値の高い商品を生み出し、販路を広げることができれば、東京電力福島第一原発事故の風評に立ち向かうことができる。連携と協業をさらに強め、食による復興を加速させたい。
避難区域の解除に伴い農業生産は力強さを増している。従来の主力作物だったコメに加えてタマネギ、イチゴといった野菜や果物、花卉[かき]類、ワイン醸造用のブドウの栽培、肉用牛やヒツジの飼育など多様な取り組みが目を引く。沿岸漁業も活況を見せている。
原発事故から十年余りが経過し、荒れた農地の整備が進む一方、現場では就農者の頭打ちと販路拡大の壁に直面している。「作る」から「どこに、どのように売るか」まで、消費を見据えた双葉産食材の出口戦略を構築する段階に来ている。品質向上はもちろん、消費者に手にしてもらえる商品を提供し、食の競争力を高める工夫が不可欠だ。
東日本大震災後、東北の食産業振興を図っている「東の食の会」が活動拠点を昨春、双葉地方に移したのも、可能性を見いだしたからに他ならない。新規作物を栽培する農場を浪江町に設けたり、食材を海外に売りこんだりしている。富岡町のとみおかワインドメーヌと川内村の高田島ヴィンヤードは醸造作業を協力して行い、いくつかの町村が大学と連携して商品開発に乗り出すなど積極的なつながりが誕生しているのは心強い。
付加価値の高い商品の開発と流通・販売が軌道に乗れば食材の安定供給が必要となり、生産力向上が求められる。一次産業から三次産業まで食を通じた構造が確立できれば投資を呼び込み、雇用を生むことになる。住民の帰還促進や移住・交流人口の拡大につながっていくはずだ。食産業は地場産業振興の有望な手法となりうる。
とはいえ、食産業を定着・発展させるには官民を挙げた一層の支援が不可欠だ。政府は県高付加価値産地展開支援事業を今年度創設し、避難区域の設定された十二市町村で農作物の広域的な生産・加工を支援する体制を整えた。福島相双復興推進機構(福島相双復興官民合同チーム)も営農再開や販路開拓に努めているが、いずれも営農再開に重点を置いているのが現状だ。
消費者の動向を敏感に察知し、流通から販売までを取り込んだ一貫した施策展開が望まれる。(鞍田炎)