二〇二一(令和三)年度から里山再生事業が始まった飯舘村小宮地区の野手上(のてがみ)山(標高六二八メートル)は、うつくしま百名山の一つだ。遊歩道は七つのコースがあり、東京電力福島第一原発事故で全村避難を強いられるまでは、多くの登山愛好者らが足を運んだ。
村は阿武隈高地にあり、観光地として活用されていた森林も多い。帰還困難区域の長泥地区を除く避難指示が二〇一七(平成二十九)年三月に解除されたが、村づくりの理念で、「心を込めて丁寧に」という意味の「までい」な暮らしを取り戻したとは言えない。森林整備や除染などが不十分で、生活の一部だった山の再生が滞っているためだ。
里山再生事業は一市町村につき複数箇所の実施を認めた。村内では村民の森「あいの沢」と野手上山で進められている。村は他にも川俣町との境にある花塚山など数カ所を候補地として実施するよう復興庁に要望している。早期の着手を願うが、予算の配分などの都合で「順番待ち」の状態が続く。長期的に事業を進める上で、国は財源を確保できるのか-。村は先行きを不安視している。
あいの沢での事業は約五十一ヘクタールを対象としている。森林整備には間伐が必要だが、民有林の場合は林野庁直轄で行われる。しかし、予算の都合で一年に約五ヘクタールずつしか作業できない。計画は三年間で、対象区域全体をカバーするのは難しい状況だ。
村は里山再生事業の他に、林野庁の財政支援を受けた市町村が主体となる、ふくしま森林再生事業を三カ所で実施した。配分される予算に応じて年度ごとに伐採や作業道整備などの実施計画を立てるが、整備を希望している場所は村内に多く残っている。国の財源が確保されなければ、事業は計画倒れになる懸念があるという。
三瓶真村産業振興課長は「原発事故から十一年近くになっても、被災地はまだ復興の途上にある。村民の暮らしを充実させるため、国に継続的な予算確保を望みたい」と訴える。
多くの市町村は里山再生事業による除染を望んでいるが、認められるには高いハードルがある。