福島県沖を震源とする16日夜の最大震度6強の地震で、17日午前7時現在の県の集計では相馬市の60代男性が死亡し、54人が負傷した。脱線した東北新幹線は那須塩原-盛岡駅間で運休中、東北自動車道など高速道路も一部で通行止めが続く。県は広範囲に被害が及ぶのを受け、全59市町村に災害救助法の適用を決めた。避難所設置や食料提供などの費用は国と県の負担となり、市町村の費用負担はなくなる。
【死傷者】
相馬市の60代男性が自宅2階の窓から転落して死亡した。県によると、負傷者のうち重傷者は3人とみられる。
【家屋被害】
住宅の一部破損が各地で確認されている。
【避難所開設】
県によると、浜通りや中通りを中心に22市町村が公民館や学校など98カ所に避難所を設け、358人が身を寄せた。
【鉄道】
JR東日本によると東北新幹線の那須塩原-盛岡駅間は再開見通しが立たず、那須塩原駅以南と盛岡駅以北は臨時ダイヤで運転中。
東京発仙台行き東北新幹線やまびこ223号が16日の地震で、全17両中16両が脱線した。現場は宮城県白石市で、白石蔵王駅から福島駅方向に約2キロの地点。乗客75人と乗員3人にけがはなかった。
国土交通省によると、地震が発生して営業運行中の新幹線が脱線したのは、2004年10月の新潟県中越地震での上越新幹線以来、二例目。
JR東によると、在来線は東北線新白河-一ノ関駅間、奥羽線福島-新庄駅間、常磐線いわき-仙台駅間、磐越西線郡山-野沢駅間、磐越東線郡山-いわき駅間、水郡線磐城石川-郡山駅間、只見線会津若松-会津川口駅間が運転を見合わせている。
阿武隈急行も線路に異常が見つかるなどして運転を見合わせている。
【道路】
県内の高速道路は17日午前9時現在、東北自動車道が桑折ジャンクション以北、常磐自動車道が常磐富岡インターチェンジ(IC)以北、相馬福島道路が相馬-伊達桑折IC間で通行止め。県管理道路は路面の陥没や橋りょうの段差が確認され、12路線で通行止めとなった。震度6強の強い揺れだった相馬市の松川浦大橋近くにある市道の「鵜ノ尾岬トンネル」付近では崖崩れが起きた。
【停電】
東北電力ネットワークによると、17日午前6時現在、福島、相馬、南相馬、桑折、新地の5市町で計約3万5060戸が停電中。
【断水】
各地で断水も相次いだ。このうち楢葉町では午前9時現在、町内約3千世帯のうち約2千世帯で断水。町役場前に給水所が設置され、双葉地方水道企業団の給水車から町民に水を提供している。
【原発】
東京電力によると、福島第一原発5号機と福島第二原発1、3号機の使用済み核燃料プールの冷却が一時停止した。
同社は福島第一原発2号機の使用済み核燃料プールにつながるタンクの水位が一時低下したと発表した。弁を閉めてタンクの水位低下を止めたが、プールの冷却ができない状況になっている。
プールには燃料が615体入っているが、東電は「冷却が止まっても、水温が運転管理上の制限値である65度に上昇することはない」との評価結果を示し、燃料の安全性は保たれるとしている。
【休校】
県教委は17日、地震で一部校舎に被害が確認されたため全ての県立高を休校にした。県立特別支援学校6校で予定されていた卒業式は延期する。県立高入試に伴う出願先変更は予定通り実施する。この他、市町村教委も小中学校休校などの対応を取っている。
■今後1週間震度6強警戒
福島県沖で16日午後11時36分ごろ発生した最大震度6強の地震で、気象庁は17日未明に緊急記者会見を開き、今後一週間ほどは同程度の地震が起きる可能性があるとして注意を呼び掛けた。特にこの数日間は規模の大きな地震の恐れがある。今後も若干の海面変動は続く可能性が高く注意が必要だ。
気象庁によると、震源は太平洋プレート内部で、東日本大震災の余震域だった。宮城県登米市、蔵王町、国見町、相馬市、南相馬市の5市町で6強を観測したほか、北海道から九州にかけて広く揺れた。
規模の大きな地震が起きた際に生じる周期の長い揺れ「長周期地震動」も発生。宮城県北部の建物の高層階では、立っていられず、はわないと動けないほど非常に大きな揺れで、固定していない家具の大半が移動して倒れるほどだったとみられる。
気象庁は17日、震源の深さは約60キロ、地震の規模はマグニチュード(M)7・3と推定していた速報値を、深さ57キロ、M7・4との暫定値に更新した。
約2分前の午後11時34分には、同様に福島沖が震源で深さ57キロ、M6・1の地震があり、宮城、福島両県で震度5弱を観測した。6強の後にも地震が相次いだ。
揺れの強かった地域では家屋倒壊や土砂災害、雪崩の危険性がある。気象庁は、警戒のため岩手、宮城、山形、福島各県の一部で、大雨警報・注意報と土砂災害警戒情報の発表基準を引き下げた。
■またか…県内に傷痕 建物倒壊、橋に段差
福島県や宮城県で最大震度6強を観測した地震発生から一夜明けた17日、県内で次々と被害が明らかになった。昨年2月に起きた福島県沖を震源とする最大震度6強の地震で甚大な被害を受けた相馬市や南相馬市、新地町、国見町などを中心に特に大きな被害が確認され、住民は「またか」と声を震わせた。
阿武隈川をまたぐ伊達市や桑折町の複数の橋は段差ができるなどしたため通行止めになっている。4号国道に接続する道路もあり日常生活に欠かせないが、住民は迂回(うかい)を余儀なくされている。通行止めになっているのは伊達市の伊達橋、大正橋、桑折町の伊達崎橋、福島市の月の輪大橋。このほか昨年2月の福島県沖地震で損傷し復旧作業が続いていた桑折町の昭和大橋は19日に再開通を予定していたが、今回の地震の影響で引き続き通行止めとなる。
伊達市保原町の会社員佐藤航介さん(37)は「買い物や通勤などで日常的に使う道路なのでとても不便だ。1日も早く復旧してほしい」と話した。
国見町では建物が倒壊するなどの被害があった。
震度6強の揺れに見舞われた相馬市では、広範囲で停電となっているほか、水道管の破損による断水が続いている。市によると、いずれも復旧の見通しは立っていない。家屋の損壊も多数確認された。同市坪田の無職女性(80)方では自宅の屋根瓦が地面に落ち、食器や家具などが大破した。女性は「11年前(東日本大震災)や昨年(福島県沖地震)よりもひどい」と不安な表情を浮かべた。
昨年2月の地震で土砂崩れが起き、巨石が落下した沿岸部の松川浦大橋近くでは、今度は崖崩れが確認された。
市が開設したスポーツアリーナそうま第二体育館などの避難所3カ所には17日午前5時55分現在、自宅が停電や断水した市民約190人が避難している。東日本大震災、台風19号と記録的大雨、昨年の福島県沖地震に続く災難に、スポーツアリーナそうまに避難した同市八幡の60代女性は「またか…という気持ち。もう嫌だ」とうなだれた。
南相馬市鹿島区では断水が続いており、鹿島生涯学習センターには17日午前7時半から給水車が配置された。ポリタンクを持った市民らが訪れ長い列を成した。市内鹿島区の会社員佐藤英敏さん(56)は「40分ほど並んだ。停電でご飯も炊けず食料の確保が難しい。早く復旧してほしい」と願った。
震度6弱を観測した福島市では、JR福島駅の天井から水が漏れ、通路が水浸しになった。東口にあるビルの外壁がはがれ落ちたり、飲食店の酒瓶やグラスが割れるなどの被害が確認された。一夜明け、JR各線が運転を見合わせ、通勤客らに影響が出た。桑折町の派遣社員荒井安奈さん(37)は、普段は自宅から東北本線を使って福島市の職場に通っている。この日は夫に車で送ってもらった。「電車が動かないと移動に困る」と話した。