東京電力福島第一原発事故の帰還困難区域は南相馬、富岡、大熊、双葉、浪江、葛尾、飯舘の7市町村の337平方キロに設定された。環境省は2013(平成25)年度から帰還困難区域で捕獲事業を始めたが、野生動物は本来生息している森や山の中だけでなく、区域の内外を自由に行き来するため生息域や頭数などの実態の把握は難しい状況だ。
捕獲事業はイノシシ、アライグマ、ハクビシンを対象に、富岡、大熊、双葉、浪江、葛尾の5町村で行われている。主に箱わなを使用し、おりの中に餌を置いておびき寄せる。同省から委託を受けた事業者が見回っている。
2021(令和3)年3月現在、里山周辺や住宅に近い場所などにイノシシ用の大型340基、アライグマとハクビシン用の小型180基を設置している。捕獲数の推移は【表】の通り。2021年度のイノシシ捕獲数は前年度比で823頭減少した。環境省福島地方環境事務所で鳥獣対策に当たる沢邦之仮置場対策課長は「1年間の傾向だけで減少の理由を分析するのは難しい」と話しつつ、除染作業に伴う人の立ち入りでイノシシが逃げたり、わなに慣れてしまったりする可能性があると指摘する。
区域内では人の立ち入りが原則禁止されているため動物への「圧力」がなくなり、野生動物の繁殖や侵入を防ぐ手だてが取りにくい。双葉郡で狩猟に関わる60代男性は「国は捕獲して終わり。根本的な解決にならないのではないか」と話す。
帰還困難区域では除染やインフラ整備を進める特定復興再生拠点区域(復興拠点)が設けられ、今年は双葉、大熊、葛尾の3町村で避難指示解除が予定されている。浪江、富岡、飯舘の3町村でも来春の解除を目指している。一部で準備宿泊も始まり、実効性のある対策は待ったなしの状況だ。
環境省はカメラを設置し、捕獲したイノシシに衛星利用測位システム(GPS)首輪を付けて生息状況を調べている。沢課長は「動物も生態系の一部なのできちんとすみ分けを図りたい。帰還や移住が進めば人と動物がぶつかる場所がある。データの収集、分析、評価と捕獲を継続し、各市町村との連携を強めたい」と話す。
野生動物は市町村を選んで生息しているわけではない。県や市町村は境界をまたいだ広域的な対策を進めている。