X メニュー
福島のニュース
国内外のニュース
スポーツ
特集連載
あぶくま抄・論説
気象・防災
エンタメ

【戻せ恵みの森に ―原発事故の断面―】第4部 鳥獣被害(32) 動物との共生図る 住民が積極的関与を

2022.04.22 10:40
電気柵の点検記録をまとめたファイルを眺める神さん

 東京電力福島第一原発事故により、県土の一部で人の立ち入りが制限された上、野生動物の捕獲数は増え続けている。住民はどう向き合えばいいのか-。猪苗代町白津地区で3月末まで区長を務めていた神郁男さん(66)は「住民が積極的に関わらないと、動物との共生は実現できない」と強調する。

 白津地区は町内の川桁山(1,413メートル)の麓にあり、54戸、約150人が暮らす。高さ60センチの電気柵が山裾に沿って約2・6キロにわたり設置されている。住民による自主的な電気柵の点検を鳥獣対策の柱に据え、一定の効果を上げている。町は2015(平成27)年度に農林水産省の鳥獣対策優良活動表彰(農村振興局長賞)を受けた。今も県内外の自治体からの視察が相次ぐ。

 白津地区では特にサルやクマが多く目撃されてきた。通学する児童の安全確保や農作物への被害軽減を図るため、2015年に取り組みを始めた。

 電気柵に風で運ばれた枝が引っかかったり、草木が伸びたりすることで漏電し、電圧が低下するのが課題だった。猟友会などに所属する住民を独自に「鳥獣害対策係」に任命し、週に1回、住民とペアになり、毎年4月から11月にかけて設置場所を見回っている。

 山林と住宅地の間の見通しを良くするため、年に1回、山裾周辺で草刈りしている。餌となる柿や栗の木も伐採した。それ以降、野生動物は住宅地にほぼ姿を見せなくなり、人や農作物への被害もなくなった。

 だが、町内では野生動物の捕獲数は増加傾向にある。特にイノシシが顕著で、2011年度はゼロだったが、2020(令和2)年度には187頭に上った。町は鳥獣害対策専門の職員を4人配置して対応している。県内市町村では最大規模の態勢で、住民や有害鳥獣駆除員らと連携を図っている。

 課題もある。駆除員は60代以上で、高齢化が進む。県猟友会の会員数は原発事故発生後に激減し、3000人を割り込んだ。現在は回復傾向にあるが、2000人台で推移している。神さんは「狩猟の担い手は少なくなるし、過疎化で空き家は増えていくはず」と話す。

 捕獲した動物は埋設や焼却などで処分されている。県内では原発事故の影響で食材としての資源利用は進んでいない。