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【漁業復興へ】早期に県外操業再開を(5月2日)

2022.05.02 09:36

 県内の海面漁業は、試験操業から本格操業に向けた移行期間の二年目に入った。東日本大震災で被害を受けた漁港や漁船の復旧は終えたものの、漁獲量は回復しないなど漁業を取り巻く環境は依然、厳しい。水産業を再生するには流通体制の整備とともに、県外海域での漁を早期に再開する必要がある。

 沖合底引き網漁は震災前、相馬双葉、いわき市両漁協などに所属する約三十隻が宮城県から千葉県の海域で行っていた。主にカレイ類やヒラメ、ズワイガニを水揚げし、割合は全漁獲量の四割強を占めた。船びき網、さし網などの沿岸漁業については茨城、宮城両県側との合意に基づき、県内の約百五十隻が隣県海域で実施していた。東京電力福島第一原発事故を受け、沖合底引き網漁、沿岸漁業ともに海域をまたいだ操業自粛を続けてきた。

 試験操業が終了したことで海域を越えた漁は可能になったとはいえ、直ちに原発事故発生前の漁場で操業を始めるのは困難な状況だ。県などによると、隣県からは、それぞれが保護してきた水産資源を本県の漁業者に漁獲されることへの抵抗感も示されているという。県漁連の担当者は「隣県の漁業者に納得してもらう必要がある。一方的に再開するわけにはいかない」と慎重に協議を進める考えだ。

 本格操業に向けた移行期間一年目の二〇二一(令和三)年の漁獲量は震災と原発事故発生後、最多となる約五千四十五トンだった。ただ、震災前の二〇一〇(平成二十二)年の約二割にまでしか達しておらず、漁獲量の拡大は急務といえる。相馬双葉漁協の沖合底引き網漁の震災前の年間漁獲量は約六千五十トンで、宮城、茨城、千葉沖からの水揚げが約六割を占めた。本県沖だけで、漁獲をこれ以上伸ばすのには限界がある。県外で操業できなければ、本県沖の海産物のみを取り続けることになり、水産資源の減少にもつながりかねない。

 県は昨年末にまとめた県農林水産業振興計画で、二〇三〇年度の沿岸漁業生産額の目標を二〇二〇年度の五倍に当たる百億円以上とした。震災前の実績に八億円程度を上積みした。実現には一日も早く本格操業に踏み出すとともに、水産資源を守る手だても求められるだろう。

 将来に希望を持って漁業に取り組める環境にならなければ、後継者は育っていくまい。関係県の漁業者らが震災前と同じ形態での操業再開に向けて議論を深められるよう国、県は積極的に働きかけてもらいたい。(円谷 真路)