X メニュー
福島のニュース
国内外のニュース
スポーツ
特集連載
あぶくま抄・論説
気象・防災
エンタメ

【戻せ恵みの森に ―原発事故の断面―】第5部 山の恵み(41) 実情に即し運用を 対象を限定して管理

2022.05.11 10:30

 食品中の放射性セシウム濃度は食品衛生法の基準値(1キロ当たり100ベクレル)で厳格に管理されている。県内では野生キノコだけでなく、山菜も品目ごとに出荷制限の対象になっている。対象の種類と該当市町村は【表】の通り。専門家は東京電力福島第一原発事故発生から11年が経過する中で、蓄積されたデータや知見を生かし、出荷制限などに関する基準値の運用を実情に即して見直すべきだと指摘する。

 量子科学技術研究開発機構・放射線医学研究所生活圏核種移行研究グループの田上恵子グループリーダーは「消費量の少ない食品に限定した新たな基準値を設けてはどうか」と提案する。

 環境放射生態学が専門で、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会放射性物質対策部会委員を10年以上務めている。現在の基準値を設定する際の審議にも携わった。

 国内では放射性物質のモニタリングが徹底され、基準値を超過する食品は流通していない。厚生労働省が昨年2~3月に調査した平均的な食卓で摂取する食品での内部被ばく線量の推計は、年間0・0005~0・0009ミリシーベルトだった。上限とする1ミリシーベルトの0・1%程度に過ぎない。

 基準値設定の際に参考にした政府間組織コーデックス委員会のガイドラインは、消費量の少ない食品について、放射性セシウム濃度を一般食品の10倍高い数値で設定。欧州連合(EU)もマイナーフードは一般食品1キロ当たり1250ベクレルの10倍となる1万2500ベクレルとしている。こうした状況を踏まえ、田上氏は「基準値超過が見られる野生動植物に特化して集中的に測定し、管理する方が現実的だ」と主張する。

 国の放射線審議会長を務める甲斐倫明日本文理大新学部設置準備室教授は基準値自体の緩和には否定的な見解を示す。放射線防護・リスクが専門の立場で「基準を緩めたら信頼を失ってしまう可能性がある。福島の復興を阻害することになりかねない」と懸念する。現在の基準値を維持し、放射性物質濃度の監視を継続しつつも、出荷制限や摂取制限に関する運用の柔軟な見直しを議論すべきだと訴える。

 野生キノコや山菜などは産地によって放射性物質濃度に濃淡がある。基準を満たした個体ごとに出荷を認めるなどの運用方法を例示する。住民が採取した山菜などの自家消費については、摂取に関する目安を設ける方法も考えられるとする。

 甲斐氏は、運用面での見直しや消費者との信頼関係の構築には、各自治体が放射線に精通した人材を育成する必要があるとし、「現場から解決策を提案し、国の承認を得るやり方でないと物事は動かない」と強調する。

 林野庁と県は、県内のシイタケ原木林のうち約5000ヘクタールを再生すべきと定めた。ただ、整備には約20年かかる。