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【名君の大名文化】実業家収集、光る鑑識眼 能装束、刀剣、書画…

2022.10.07 13:21
「段替り卍字繋ぎと七宝繋ぎに夕顔と菊文様唐織」
「平家物語絵巻 巻第11(上) 那須与一」

 会津若松市の県立博物館で7日開幕する企画展「名君の大名文化-岡山池田家と会津 武、その華と志-」は、林原美術館(岡山市)のコレクションを中心に、江戸時代の武家文化を伝える。関係する学芸員が3回にわたり見どころを解説する。初回は林原美術館の橋本龍主任学芸員が自館のコレクションについて記す。

 岡山市北区、黒壁に金鯱(しゃち)が映える岡山城天守閣にほど近い、旧二の丸対面所跡に所在するのが林原美術館である。当館は林原一郎(1908〈明治41〉~1961〈昭和36〉年)が一代で収集した東洋美術コレクションをもとに、1964年に開館した。当館のコレクションとその成り立ちを紹介する。

 水あめ製造を行う林原商店の三代目として生まれた林原一郎は、事業を大きく発展させ岡山財界に重きをなした。一方で林原家は、もとは池田家の家臣の家柄とされる。そうしたこともあってか、一郎は池田家への援助を惜しまず、岡山城二の丸の旧対面所跡の土地や建物、堀(のちに岡山市に寄贈)などを買い受けた。その中には池田家の大名調度や歴代藩主にまつわる美術品が含まれる。

 初代岡山藩主池田光政の娘の婚礼調度である重要文化財「綾杉地獅子牡丹蒔絵婚礼調度」は絢爛(けんらん)豪華なだけでなく、江戸時代初期の大ぞろいの婚礼調度として資料的にも貴重なものである。また重要文化財「菊橘文縫箔(ぬいはく)」や「段替り卍字繋ぎと七宝繋ぎに夕顔と菊文様唐織」などの能装束の総数は数百点にも及ぶ。能面や帯類、小道具なども含めて、大名家の能楽の内容とスケールを示すもので、武具や伝来の書画などと共に大名文化の粋を今に伝えている。

 また林原一郎個人の収集品を概観する時に、刀剣に触れないわけにはいかない。一文字吉房・長船長光という二口の国宝を含むその多くが備前刀であり、備前刀のコレクションとしては日本屈指であろう。また刀剣に付属する拵(こしらえ)や刀装具類も充実している。

 書画や工芸品にも見るべきものが多い。重要文化財の「清明上河図(せいめいじょうがず)」や絵巻としては日本で唯一全巻がそろった「平家物語絵巻」の他、岡山にあって備前焼は当然として、現在ほど注目されていなかった正阿弥勝義の金工作品も収集するなど、一郎の時代に先んじた鑑識眼を垣間見ることができる。

 彼のコレクションは鑑賞美術の立場を取っているところにその特徴がある。したがって備前焼の水指や「名物淀肩衝(よどかたつき)」などの茶道具の名品も含まれるが、他の美術館で見られるような道具組は困難である。そこがまさに林原一郎の数寄であり、当館のコレクションの特色ともいえよう。=次回は14日掲載=