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【「中間指針」追補】継続的な見直し必要(12月21日)

2022.12.21 09:00

 東京電力福島第1原発事故の賠償基準となる中間指針の第5次追補は、実態との開きを改めた点で一定の評価はできる。ただ、9年ぶりの見直しは遅過ぎた感が否めない。未曽有の事故の深刻さ、被害の甚大さは前例がない。最難関の廃炉作業は一進一退を繰り返し、被災地は長期にわたる懸念にさらされる。文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会は、今後も実情に応じた不断の検証が欠かせない。

 最高裁で今年3月、指針を上回る賠償を東電に命じる判決が確定した。司法は避難継続による精神的な損害に加え、生活基盤の喪失や変化などの実態に現指針が見合っていない不合理さを指摘した。原発事故による避難者の苦痛や健康への不安は国の想定を超えていると認定した判断であり、第5次追補に増額の目安が盛り込まれたのは妥当な流れと言える。

 避難区域などは過酷な避難状況や生活基盤の喪失・変容に伴う精神的損害などが加算された。避難指示が出なかった県北、県中などの23市町村は子どもや妊婦を除き、賠償期間を事故発生から2011(平成23)年末まで延長するとされた。

 指針には、損害額の目安が「賠償の上限ではない」、原発事故との因果関係が認められれば「全て対象になる」との見解が新たに盛り込まれた。被害者による賠償請求を真摯[しんし]に受け止め、合理的かつ柔軟な対応や被害者の心情に配慮した誠実さを東電に求めた点も重い。

 賠償額が十分でない場合の救済措置として裁判外紛争解決手続き(ADR)などがある。ADRで東電は、要求額が指針を上回るなどの理由で和解案を拒否する例が見受けられた。上限ではないと明記した指針を最大限に尊重して今後の賠償に対応する必要がある。

 今回の見直しでも白河など県南の9市町村は除外されたが、東電は独自の追加賠償を検討している。一方で、会津地方はどちらも対象外とされている。国と東電は地域の分断が起こらないよう、疑問については説明を尽くさなければならないだろう。

 放射性物質トリチウムを含んだ処理水を来春、海洋放出する計画に対して漁業者らの不安は根強い。水産業をはじめ、さまざまな分野に風評被害を及ぼしかねない。第5次追補が浮き彫りにしたのは、被害の実相を低く見積もってきた国の姿勢にほかならない。これまで以上に被災地の現状に目を向け、影響の度合いと想定の幅を広げた対策が求められる。(湯田輝彦)