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【鉄路と生きる(11)】第1部 磐越西線 災害機に住民参画 駅を核に交流促進 山口県の美祢線厚保駅

2022.12.26 09:50
厚保地域交流ステーションを通し、JR美祢線の活性化に取り組む大橋さん(右)ら

 JR磐越西線と同じように、豪雨災害による寸断を経験した地方路線がある。山口県美祢(みね)市を通るJR美祢線だ。2010(平成22)年7月から約1年間、全46キロが不通となった。生活の足を突然なくした沿線自治体や住民は鉄路の役割を再認識し、復旧後、鉄道を生かした地域活性化に力を入れてきた。今もまだ乗客数は少なく、JR西日本公表の赤字路線に該当するが、関係者は路線を守ろうと地道な努力と試行錯誤を続けている。

 豊かな自然の中にたたずむ美祢線厚保(あつ)駅(美祢市)。無人駅に地域住民や駅の利用者が集うスペース「厚保地域交流ステーション」がある。駅に降り立った人と住民が談笑する時もあれば、地元サークルが会合を開く時もある。年間延べ約5千人が利用する。災害復旧後の路線活用を促すため美祢市が企画し、2013年にオープンした。市がJR西から駅舎を無償で借り、駅周辺の住民による交流ステーション振興協議会が指定管理者を務める。

 「鉄道が通っているのが当たり前。深く考えたことはなかった」。協議会長の大橋継雄さん(80)は災害前を思い返す。路線は通学など住民生活に密着してきた。不通を受けて代行バスが運行されたが鉄道より時間がかかる上、天候や道路状況で予定時刻通りに運行できない時もあった。多くの住民が鉄道のありがたみを実感した。

 沿線自治体などの要望もあり、路線は復旧した。「これからは自分たちで守らなければ」。大橋さんは復旧後の市の動きに賛同し、協議会長として活動してきた。毎朝ステーションを開け、会員と共に駅を訪れる人を出迎える。ステーションの雑記帳には山口県内外から訪れた利用者のメッセージが残る。沿線を撮影した写真を届けてくれる人も。「ここがあるから、厚保に人が集まる」。駅を起点とした交流の効果を実感している。美祢、山陽小野田、長門の沿線3市などは復旧後に美祢線利用促進協議会を設立。国鉄時代のスタンプを復刻したスタンプラリーなど人を呼び込む企画を展開している。

 官民を挙げて駅を交流拠点とする取り組みは全国から注目を集めるが、乗客数の視点から見れば、現実はまだ厳しい。思うように数字には表れていない。JR発足の1987(昭和62)年度に1741人だった美祢線の1キロ当たりの1日平均乗客数は年々減少し、コロナ禍前の2019年度でも478人まで落ち込んだ。それでも、模索は続く。利用促進協議会長の篠田洋司美祢市長(59)は語る。「人口減少の中、鉄道を通した交流人口をいかに増やせるかが重要だ。美祢線を生かした効果的な地域公共交通の仕組みを構築したい」


■JR美祢線

 山口県を南北に貫く厚狭(山陽小野田市)-長門市駅(長門市)間の全12駅46キロの幹線。石炭や石灰石などの貨物輸送で栄えたが、現在、貨物の定期運行は終了している。2010(平成22)年7月、豪雨災害を受けて全線不通となり、翌年9月に再開した。美祢市が市内の厚保駅と於福(おふく)駅に地域交流ステーションを設置している。