観光に鉄道の利活用促進の活路を見いだそうとする地方路線は、JR磐越西線を含め全国各地に多い。JRグループの中で最も南を走る鹿児島県の指宿枕崎線もその一つだ。
桜島を眺めながら薩摩半島の海沿いを南下する。沿線には温泉で知られる指宿市などがある。だが、1キロ当たりの1日平均乗客数は減少の一途をたどり、一部区間はJR九州公表の赤字路線に該当する。観光を通したまちおこしに取り組むNPO法人「頴娃(えい)おこそ会」は「乗りものプロジェクト」と銘打ち、民間の力で鉄道を生かした集客の方策を練っている。
プロジェクトは2018(平成30)年、会員の葛岡克紀さん(51)を中心に始動した。葛岡さんは鉄道好きという東京からの移住者。ある時、地域課題の解決方法を探る鹿児島県主催の講座で、指宿枕崎線の利活用をテーマに取り上げた。現状に理解を深める中で「鉄道への思いがより強くなった」といい、頴娃おこそ会の活動に結び付けた。
全国の先進事例を学ぶ講演会、駅前でのマルシェ、沿線周辺で飲食後に列車での帰宅を促す「呑ん方(のんかた)列車」などを企画し、集客の工夫を重ねてきた。2019年4月からは西頴娃駅(南九州市)の簡易委託を受託し、切符販売などを担っている。
今年1月にはホームの周りにススキなどが生い茂っていた松ケ浦駅(南九州市)の景観整備に関わった。日本百名山の開聞岳(標高924メートル)と駅の織り成す景色が鉄道写真家に注目されていた。JR側の提案もあり、観光資源として磨き上げるため雑草を刈り払った。葛岡さんは撮影した写真をインスタグラムなどで発信している。
鉄道を地域に生かす動きは地元企業にも広がった。葛岡さんの勤務先で、かつお節加工品販売を手がける中原水産(枕崎市)は「南九州鉄道プロジェクト」と題し、観光列車の企画、地方路線の活性化に向けたデータ収集などを進めている。
関係者間で鉄道への関心が高まる一方、葛岡さんは「車が普及した地域。一般市民の鉄道への関心は低い」と現状を受け止める。景観の優れた福島県内の地方路線の取り組みにも注目しているといい、「民間だからこそ県境などを越えて、広範囲に連携できるはず。互いに協力して一緒に鉄道を盛り上げていきたい」と鉄路のさらなる活用策を模索している。(第1部「磐越西線」は終わります)
■JR指宿枕崎線
鹿児島県の薩摩半島を通る鹿児島中央(鹿児島市)-枕崎駅(枕崎市)間の36駅87.9キロの地方交通線。枕崎駅はJR最南端の始発・終着駅。喜入(鹿児島市)-指宿駅(指宿市)間、指宿-枕崎駅間の2区間がJR九州公表の収支で赤字となっている。