X メニュー
福島のニュース
国内外のニュース
スポーツ
特集連載
あぶくま抄・論説
気象・防災
エンタメ

【震災語り部】ネットワークを強めて(12月29日)

2022.12.29 09:35

 県は東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の語り部による「ふくしま語り部ネットワーク会議」を組織し、教訓を全国に伝える仕組みづくりを始めた。発災12年目の年が暮れゆく中、記憶の風化は一段と懸念され、風評も依然残る。福島の姿を生の声で伝える語り部の役割は一層、重みを増す。ネットワークを機能させて仲間を増やし、活動の場を広げてほしい。

 語り部は団体や個人で活動し、被災地の視察、各種イベントなどで震災と原発事故の教訓をはじめ、発生からの歩みや現状などを発信している。高齢化で担い手が減少傾向にあるなど、課題は多い。聞き手や周囲から傷つくような言葉を受け、語り部を続けられなくなった人もいる。時間の経過とともに、活動の場の確保も難しくなっている。

 ネットワーク会議は、語り部同士が協力して永続的に取り組める体制を築き、県外での活動を強める目的で設けられた。17団体で構成し、会員は合わせて約170人だが、実働は1~2人という団体もある。新たな人材の確保が急がれ、有識者を交えたプロジェクトチームが年度内に育成計画案をまとめる。

 NPO法人富岡町3・11を語る会が進める世代別の語り人育成教室、被爆地の広島、長崎の伝承継続の取り組みなど、県内外の先進事例を参考に若い世代を生かす方法を考えたい。市町村などに協力を求め、潜在的な語り部を掘り起こす余地もあるだろう。

 県が今年度、各都道府県に意向を聞いたところ、防災イベントへの出演を求める声が多かった。実際の派遣要請もあり、徳島県の防災会議に語り部が出向いている。今後はネットワーク会議を中心に、継続的に全国で発信する体制づくりに取り組むとしている。各地の県人会をはじめ県出身者、ゆかりの人たちの力も借りてはどうか。

 県内で語る機会を増やすことも重視する必要がある。教育旅行や外国人を含む観光誘客と連動すべきであり、小中学、高校、大学などへの出前講座も大きな意味を持つ。観光、農林水産、教育など行政分野の垣根を越えた取り組みに加え、宿泊業者、地域づくり団体といった民間との連携も欠かせない。

 語り部の活動は災害への備えはもとより、交流・関係人口の拡大につながる。ネットワーク会議の青木淑子会長は「これからは過去だけでなく、未来を語ることも重要になる」と展望する。本県の教訓を語り継ぐことは、持続可能な古里を築く営みにほかならない。(渡部育夫)