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【鉄路と生きる(26)】第3部 磐越東線 各駅に「友の会」発足 利用促進へ特別列車

2023.02.18 10:00
特別列車での旅行の様子を伝える大越駅友の会の会報

 列車の中を写した、いくつもの写真。男性の一人はカラオケで自慢ののどを披露し、年配のグループは酒を酌み交わしている。人々の屈託のない笑顔が、一人一人にとってかけがえのない時間だったことを物語る。

 元大越町商工会長の管野幸治さん(72)=田村市大越町=の自宅には「大越駅友の会」の会報が1993(平成5)年から約20年間分、丁寧に保存されている。会員による慰安旅行などの様子を垣間見ることができる。

 大越駅(田村市大越町)周辺だけでなくJR磐越東線沿線にはかつて、地元の商工会や住民、自治体職員らでつくる各駅の「友の会」が次々と発足した。国鉄時代から続く鉄道の利用者減に歯止めをかけようと特別列車を走らせ、会員が各地に出かけていった。

 「青森の恐山や、佐渡島に行ったなあ」。管野さんは会報を見返しながら、思い出にふける。

 1991年に発足した大越駅友の会は年1回、1泊2日の日程で鉄道を使った慰安旅行を企画した。多い時には200人近い町民が参加し、大越駅から「大越駅友の会号」と銘打った特別列車に乗り込んだ。一度に大勢で出かける企画は、まさに鉄道が強みとする大量輸送を生かした発想だった。

 列車は通常ダイヤの合間を縫って走った。お座敷風の造りで、カラオケ設備もあった。駅を出発すると、たちまち列車内は大宴会。商工会加盟店が協力して賞品を集め、お楽しみ抽選会などで盛り上がった。

 「年1回の旅行を楽しみに待つ人がたくさんいたね」。旧大越町職員OBで大越駅友の会会長を務めた横山紀男さん(82)=田村市大越町=が振り返る。友の会は磐越東線の活性化に加え、会員の親睦を深める大切な機会でもあった。

 友の会発足前には、「町民号」が磐越東線を走った。町職員として旅行に随行した横山さんは「参加者が多くて誘導が大変だった」と懐かしそうに笑う。町民号の活動が友の会に引き継がれ、大越の人々の恒例行事として定着した。

 友の会の会報には大越駅の乗客数の推移、快速列車乗り入れや簡易券売機導入のお知らせなども掲載されている。路線を取り巻く課題を住民同士で共有し、日常的な利用につながるような意識醸成に努めていた。

 人口減少や会員の高齢化などに伴い、友の会の活動は徐々に縮小していった。沿線にいま、友の会はない。管野さんは「時代は変わったが、現状に合った方策に知恵を出し合い、地域として磐越東線を盛り上げたい」と前を向く。

 廃線の危機を経験し、一度は地域住民や自治体がそれぞれの立場で路線存続に汗を流した磐越東線。かつて、貨物輸送で隆盛を極めた時代があった。