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【鉄路と生きる(29)】第3部 磐越東線 「駅は地域の拠点」 地元団体 活性化へ知恵絞る

2023.02.22 10:01
趣のある小川郷駅前で、路線と駅の存続を求める草野会長

 福島県いわき市小川町の中心部にあるJR磐越東線小川郷駅は、1915(大正4)年に開業した当時の姿を今に残す。地元出身の詩人草野心平(1903~1988年)の作品にも描かれる。1世紀余の歴史を刻み、郷愁を感じさせる木造駅舎には鉄道愛好家らが時折、足を運ぶ。

 地元のボランティア団体・小川郷(さと)の会が駅周辺の景観保全や地域の活性化に汗を流す。だが、JR東日本公表の利用者の少ない赤字区間に該当する。「駅はかけがえのない地域のよりどころ。もしもなくなれば、過疎化に拍車が掛かってしまう」。会長の草野充宏さん(66)=小川町商工会長=は路線と駅の存続を願う。

 かつてはセメントの原料となる岩石が付近の山からケーブルで駅に次々と運ばれ、業者が列車で輸送していた。だが、1980年代に岩石の貨物輸送が終わったのを機に、駅周辺の活気は失われていった。乗用車の普及もあり、駅利用者は減少の一途をたどった。駅前に3軒あった旅館は姿を消し、1989(平成元)年に無人駅に切り替わった。

 1970(昭和45)年に約8200人いた小川地区の人口は、半世紀で約2千人減少した。一方、高齢化率は2020(令和2)年4月1日現在、35・85%に上る。

 草野さんらは路線存続につなげようと、鉄道と自転車を活用した交流人口の創出に知恵を絞る。

 列車内に自転車を持ち込み、夏井川渓谷など雄大な自然が広がる沿線を走ってもらう計画だ。実現にはJR東日本との協議が必要になる。磐越東線川前駅にあるレンタル用電動自転車を小川郷、江田の両駅にも配置し、誘客につなる構想も描く。「路線と駅を生かし、にぎわいを呼び戻したい」。草野さんの言葉に力がこもる。

 復興に向けて歩む川内村からも、磐越東線存続を求める声が上がる。昨年9月、村といわき市小川町を結ぶ国道399号十文字工区が開通し、悪路が解消した。村と小川郷駅を結ぶ路線バスが実現すれば、市内に下宿していた村の高校生が村内の自宅から駅を経由して通学可能になる。村民の一人は「子どもたちのためにも、これから駅と路線の重要性は増すはず」と話す。

 村、小川町の両商工会は勉強会を開き、公共交通の在り方を検討している。4月にも方針をまとめ、関係機関に要望活動を行う予定だ。草野さんは「地域のためには路線維持を前提にした対策が求められる。JRと自治体、地域住民が早期に話し合う必要がある」と訴える。

 人の往来を生む路線と駅は、地域の象徴として親しまれてきた。赤字区間の小野新町駅のある小野町では、小野高が田村市船引町の船引高に統合される。住民らは「高校に続いて駅まで失っては地域が衰退してしまう」と懸念を抱く。