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【震災12年 創業支援FTC】企業連携で成果上げて(3月2日)

2023.03.02 09:35

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故で被災した浜通りの再生に向け、新たな産業の創出が待たれている。県は「フクシマ テック クリエイト(FTC)」と銘打った支援制度で現地での創業を後押ししている。採択された事業を具現化するには、広報・周知活動などを強化し、県内企業との連携を生み出す必要がある。

 2020(令和2)年度に創設されたFTCは浜通りなど15市町村での創業や新たなビジネス展開を目指す計画を県内外から公募し、1千万円を上限に試作品開発や市場調査費などの全額を補助してきた。国、県と15市町村、金融機関、研究機関などがサポーターとして名を連ね、専門のコンサルティング会社が事業化へ誘導する。

 年間約4億円の公費が投じられ、これまでの支援先は85件に上る。東北大発ベンチャーによる月面探査技術を活用した自動運搬ロボットは、農家への導入が決まった。福島市の広告・デザイン業者は異分野への参入を目指し、飯舘村の耕作放棄地でホーリーバジルの栽培を進めている。お茶やルームミスト、ハンドクリームといった関連商品を年内にも発売予定で、金融関係者が関心を寄せている。

 ただ、さまざまな事業の種を新たなビジネスに飛躍させるには、より多くの県民の「知恵」を持ち寄る努力が大切ではないか。事業を受託している福島イノベーション・コースト構想推進機構は、採択した案件を発表する催しを年1回開き、ホームページで公開している。産業関連のイベントで紹介する機会もあるというが、これだけでは物足りない。企業や事業家、研究機関、金融機関、投資家などに内容を広く知ってもらう日々の積み重ねを怠ってはならないだろう。

 例えば、福島民報社の「ふくしま経済・産業・ものづくり賞(ふくしま産業賞)」の受賞者数は2015(平成27)年度の創設以来、延べ260社(団体)に達する。長年培ってきたものづくりの技が、世界市場で高い評価と信頼を勝ち得ている事例も少なくない。資金難などさまざまな苦難を克服して時代の波に乗り、事業を急成長させた経営者も含まれている。

 県とイノベ機構は、コンサル会社に事業化支援を委ねるだけでなく、こうした既存企業と起業家のつながりを独自に築いてもらいたい。製品開発や販路開拓・拡大への課題解決のヒントを得たり、荒波に耐え得る貴重な経営哲学を学んだりする格好の機会になるはずだ。(菅野龍太)