X メニュー
福島のニュース
国内外のニュース
スポーツ
特集連載
あぶくま抄・論説
気象・防災
エンタメ

【震災・原発事故12年】復興を確かなものに(3月11日)

2023.03.11 09:00

 あの日から丸12年の3・11を迎えた。原発の廃炉と処理水の海洋放出、帰還困難区域の避難指示解除、中間貯蔵施設に運ばれた除染廃棄物の最終処分…。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故からの復興は、いまだ道半ばだと痛感する。復興が進むかどうかは、山積する課題にどう立ち向かうかで決まる。福島はその分岐点に立っている。

 直面する最大の課題は処理水の海洋放出だろう。政府は原発内にたまり続ける放射性物質トリチウムを含む処理水について、春から夏にかけて放出する方針を堅持している。東電は関連施設工事など準備を進める。ただ、この時期にきても本県や隣県の漁業者や市町村議会、幅広い業種からの反対の声は絶えない。

 その実情は、最近の世論調査にも見て取れる。日本世論調査会が全国を対象に実施した調査では、海洋放出によって「大きな風評被害が起きる」「ある程度起きる」の合計は93%に達した。福島民報社と福島テレビが県民を対象に実施した同質問も90・5%に上り、同様の傾向を示した。さらに、海洋放出の賛否の問いでは、賛否そのものは拮抗[きっこう]しているものの全国調査では「分からない」が53%となった。前年の同じ質問での32%に対して21ポイントも増えた。

 こうした数字はどんな意味を持つのか。専門家は、9割を超える圧倒的な風評の懸念について「一般消費者の理解や納得が得られていない表れ」とし、「分からない」の増加を「科学的な安全性を発信する国、東電を信頼できず、判断しかねているのが一因」と分析する。

 十分な信頼を得ていない政府、東電が全国で手厚い理解活動を展開しても県民、国民には響いていないことを数字は示している。「関係者の理解なしにいかなる処分も行わない」と約束しながら、日程ありきのように突き進む政府と東電は、なぜ理解が進まないのか、強く認識すべきだ。

 岸田文雄首相は8日の福島民報社などの合同インタビューに対して、海洋放出は「さまざまな材料をしっかり確認しながら総合的に政府として、総理大臣として判断しなければならない」と述べた。責任を負う姿勢は当然だが、その判断基準については「具体的な数値などの目標はない」と、あいまいな答えしか返ってこなかった。

 最終的な判断の根拠が明確でないまま、予定通りに海洋放出を強行されれば、県内は新たな風評に見舞われるだろう。復興を確かなものにするため、最善策の模索を諦めてはならない。(安斎康史)